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第5章ー3

「フランス政府が心配しなくとも、私はナポレオン6世として名乗りを上げるつもりはないのだがね」

 ルイ・モニエールと偽名を名乗っているルイ・ナポレオン・ボナパルトは、打ち解けた態度を、アラン・ダヴー大尉に今は示していた。

「お言葉ですが、戦争というのは厄介なものです。愛国心が異様に高まる。フランス政府としては、戦争に勝たねばならない。ですが、そこにナポレオンという名が出てくるのは困るのです。帝政の亡霊が復活してはかないませんから」

 ダヴー大尉は直言した。


「それなら、君を派遣することはあるまい。ナポレオンとダヴーの組み合わせこそ、フランス政府にとっては悪夢なのでは」

「私はダヴーの名は承けていても、血は承けていませんから。それに、あなたを無碍に扱ったという噂が陰で流れてもフランス政府は困るのですよ。何しろ、ベルギー王室やイタリア王室とも、あなたは血縁がありますから」

「ベルギーはともかく、今のところは中立国のイタリアまで出て来るとはな」

 ダヴー大尉は、ルイ・ナポレオン・ボナパルトと更に会話した。


 ルイ・ナポレオン・ボナパルトの父方祖母は、イタリア王女マリーア・クロティルデ・ディ・サヴォイアであり、極めて遠い血縁ではあるが、ルイ・ナポレオン・ボナパルトは、現イタリア国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世とも親戚という事になるのだ。

 欧州の王室、皇室は複雑な血縁関係で結ばれているが、ルイ・ナポレオン・ボナパルトの血縁関係もその一つの表れといえた。


「そういう事情で、いよいよフランス外人部隊第1師団が、最前線に投入される際の直接の上官として、私が来ることになったわけです。私は、スペインで実戦経験があり、「白い国際旅団」の一員で、フランコ総統直々に叙勲もされた身です。外人部隊の下士官兵も、私には一目置くでしょう」

「確かにな。そして、私を監督、半監視するという訳か」

 ダヴー大尉は、自分が外人部隊に着任した事情の裏まで、少し明かして話し、ルイ・ナポレオン・ボナパルトは、興味深げな表情を浮かべながら肯いて、そう問いかけたが、ダヴー大尉は返答しなかった。

 実際のところは、そうなのだが、さすがにそこまでは明かせない。


 なお、ルイ・ナポレオン・ボナパルトが少尉に任官されているのは、ベルギー王室との関係から、ベルギー陸軍士官学校で士官教育を(半秘密裡に)受けているからだった。

 少しでもナポレオン1世に近づきたいと、ルイ・ナポレオン・ボナパルトは、士官教育を偽名で受けており、それもあって少尉への任官が認められていた。


「ところで、私がナポレオン6世なのを知っているのは、他に師団内では誰がいるのかな」

「フランス軍上層部から私が教えられた限りでは、師団内で知っているのは師団長だけです。大隊長も知らないとのことでした。フリアン軍曹にも教えていません。フリアン軍曹は、あなたを単なる小隊長と思っていて、中隊全体を見張るつもりの筈です。こういった場合、他にも裏があってもおかしくはないですが」

「なるほどな。そこまで配慮されているとは知らなかった」

「自分が重要人物なのをご自覚ください」

「分かった」

 ルイ・ナポレオン・ボナパルトは、そう言い、ダヴー大尉との間に沈黙が暫く落ちることになった。


 ダヴー大尉は無言のまま、想いを巡らせた。

 何と声を掛けたらいいのか、どうにも気まずい雰囲気になってしまった。

 結局、沈黙を破ったのはルイ・ナポレオン・ボナパルトの方だった。


「ルイ・モニエール少尉として、私はフランス外人部隊士官を務めさせてもらう。戦場では、私はまだまだ初陣だ。色々と教えていただけないか」

「そうします」

 二人は敬礼を交わした。

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