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第5章ー1 ライン河渡河を目指して

 第5章の始まりになります。


 土方勇、岸総司共に1940年9月1日付をもって昇進します。

 土方勇は、1940年9月1日付をもって海兵隊中尉に昇進していた。

 これで、義弟の岸総司と肩を並べられる、と内心で思ったのだが。

 岸総司も同日付で海兵隊大尉へと昇進し、第3海兵師団司令部の参謀の1人として異動が命ぜられた。

 土方中尉としてみれば、義弟とはいえ海兵で2期先輩になる以上、仕方ないとは思ったが、義弟と肩を並べたかった、と内心で思ってしまった。

 もっとも、岸大尉は岸大尉で思うところがあるようで、土方中尉と話をしてから異動していった。


「土方、中尉昇進、おめでとう」

「岸大尉こそ」

「お互い、そう呼ばれることに早く慣れないとな」

「はい」

 土方中尉と岸大尉は会話した。


「それにしても、最前線で戦いたいが、師団司令部に異動とはな。土方が羨ましいよ」

「そうは言っても、師団司令部の参謀勤務ですよ。出世コースではないですか」

「最前線で戦ってこそ、軍人としては華だよ」

 岸大尉は、少し愚痴るような口ぶりで、土方中尉の言葉を遮った。


 前線(部隊等の)勤務と後方(参謀等の)勤務双方を交互にやるのが、基本的な日本海兵隊の出世コースだった。

 そういった観点からすれば、岸大尉は出世コース組と言えた。

 ちなみに、土方中尉は昇進しただけで、職務は相変わらず第1海兵師団所属の戦車大隊の隷下にある戦車小隊長の1人のままだった。

(もっとも、後方(参謀等)勤務の士官は、戦時中は大尉昇進以降という不文律がある以上、土方中尉が後方(参謀等)勤務に回るのに早すぎるというのも事実だった。)


「お気持ちは分かりますが、職務に励んでください」

「分かってはいる」

 土方中尉の言葉に、岸大尉は前を向いたような発言をした。


「実際問題として、早くライン河を渡り、独本土侵攻を果たさないとな。そのために職務に励むつもりだ」

「独ソが無条件降伏し、共産中国が蒋介石政権によって倒される時が、この戦争が終わる時でしたよね」

「その通りだ。まずは、独を無条件降伏に追い込むことだ。そのためには、英仏米日等の連合軍は、独本土に侵攻しなければならない」

「確かに」

 二人は更に会話した。


「それにしても、戦争が終わるのには、数年は掛かりそうだ。そろそろ産まれる筈の自分の子は、戦争が終わったときには、幾つになっているかな。早く妻子の下に帰りたいものだ」

「それを言ったら、自分も早く、和子や妻の千恵子の下に帰りたいですよ」

「そうだな。家の豆味噌で作った味噌汁を早く味わいたいものだ」

「私は、米味噌、会津味噌で作った味噌汁ですね。結婚後すぐに千恵子に仕込まれてしまいました」

「こいつ、俺の姉とはいえ、妻の惚気話をしやがって。俺は妻とそう仲良くなる前に出征したからな」

「凱旋帰国した後、ゆっくり仲良くなればいいですよ」

「まあな。恋愛結婚のお前と違って、こちらは見合い結婚だからな」

 岸大尉の声が微妙に陰ったが、土方中尉は気づかないふりをして、話を変えることにした。

 自分の考えすぎかもしれないが、どうも、岸大尉は自分の戦死した父をふと思い起こしたのではないか、と土方中尉は推察したからだ。


「異動先が第三海兵師団、新選組ということは、お互いに先祖代々の縁がある部隊です。島田魁の縁者に相応しい功績を挙げられるように頑張ってください」

「曾祖母の兄である島田魁の名を辱めないように頑張るさ。それを言ったら、何れはお前も第三海兵師団勤務になることもあるだろう。先祖の名を辱めないようにしろよ」

「はは。自分のことを忘れていました」

 土方中尉は想った。

 自分こそ、曽祖父の土方歳三提督の名を辱めるようなことをしてはならんな。

 それに祖父や父の名も。


「それでは行ってくる」

「ご武運を」

 二人は敬礼を交わした。

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