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第4章ー13

 そういう苦悩に満ちた対ゲリラ戦を、日本陸軍は中国本土で戦わざるを得なかった。

 第52師団長である赤柴八重蔵少将は徐州周辺の治安維持任務に奮闘していたが、いつになれば、この対ゲリラ戦は終わるのだろうか、と内心では思いつつ、部下に対して対ゲリラ戦に励むように督励し、自らも様々な作戦を司令部の幕僚と共に立てる日々を、気が付けば3か月余りが経ち、1940年の年の瀬が徐々に迫る中で送っていた。


「あの会議から約3か月か」

 12月のある日、赤柴少将は、ふと考えた。

 3か月前、この9月に欧州戦線では対独反攻が始まろうとしており、極東戦線でもハルピン奪還が完了したことから、更なる対ソ反攻を目指して、大本営連絡会議が開かれ、それに対応して関東軍や中国派遣軍内部で今後の作戦計画についての会議が開かれた。

 その中国派遣軍内で会議が開かれた際に、12名の師団長の内の1人が妙に寡黙だったのを、今更ながらに赤柴少将は思い出した。

「そう言えば、あいつは」

 赤柴少将は想いを巡らせ、陸軍士官学校の2期後輩になるその師団長と電話で話し合うことにした。


「そちらはどうだ」

「北京周辺の治安維持ですが、取りあえず、そちらとそう変わりはない状況です。ですが、指揮下にある部隊の情報を整理する限り、こちらでは戦略爆撃の効果が少しずつ上がってきているようですね。今のところは誤差のレベルに止まってはいますが、共産中国軍のゲリラの装備の質が低下しつつあるようです」

 赤柴少将は、その師団長と電話で話をしていた。

 軍用の有線電話なので、共産中国軍による盗聴の心配は、まず無い筈。

 そうお互いに考えることから、少し大胆に腹を割った会話をしていた。


「それなら、そろそろもう少し前線で戦うことを考えてもらおうかな。いや、京の治安維持は、そちらに任せた方がいいかな。色々な事情から」

「それは皮肉ですか。約80年前のことを持ち出さなくても」

「それに祖父母から色々と聞かされているのではないか、とも思ってな。戊辰戦争の事を」

「同じように古い話をされますな」

「少しでも知恵を借りたい、と私が思ったからだ。それに、あの席でほぼ沈黙を保っていたのは、そういった事情があるからではないか、とも思ったからだ」

「確かに沈黙を保ったのは、そういった事情もありますが。私としては、今の北京周辺の治安維持に努めたいと考えます。それ以上は、さすがに今は勘弁して下さい」

「陸軍士官学校の先輩後輩の間柄だ。腹を割って時には話してくれ」

「分かりました」

 陸軍の将官同士らしからぬ会話を、その師団長と赤柴少将は交わし、電話を終えた。


 電話を終えた師団長、簗瀬真琴少将は、暫く想いを巡らせた。

「京の都に、戊辰戦争か。あの頃、祖父はどう思っていたのだろうか」

 つい、簗瀬少将は口に出した。


 簗瀬少将は、会津藩では「会津三家」と謳われた名家の出で、代々家老を務めた家でもあった。

 そして、簗瀬少将の祖父、簗瀬三左衛門は幕末の会津藩当主、松平容保公の養父、松平容敬公の頃から家老を務め、松平容保公が京都守護職になる直前に、老齢を理由に隠居している。

 そして、祖父は、戊辰戦争の際には会津鶴ヶ城籠城戦に参加して、会津藩の最期を看取った後、斗南に一時は移住もしていた。

 もし、祖父が老骨を押して会津藩の藩政を司っていたら、少しは会津藩の運命を変えられたろうか。

 祖父は悔恨の念が深かったためか、子どもにさえ当時のことを詳細には語らなかったそうだが。


「ある意味で、幕末の京の都や戊辰戦争時の会津と似たようなものか」

 敵対者に対して、指導者層は対決を呼号し、住民を煽っている。

 住民がどちらに味方するか、それが勝敗の鍵を握る。

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