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第4章ー10

 野中五郎大尉が参加している武漢市内の操車場に対する爆撃の規模は、戦略爆撃というにはささやかな規模といって良かった。

 99式重爆撃機16機を99式戦闘機16機が護衛するに過ぎない。

 投下する爆弾量も約80トンに過ぎない。

 だが、これはあくまでも皮切りだった。


 野中大尉の知る限りでも、日本空軍の保有する99式重爆撃機だけで、200機余りが南京近郊の飛行場に展開することになっている。

 日本空軍の戦闘機部隊や、同盟軍である米陸軍航空隊のB-17を含めれば、軽く500機は超え、宣伝上は約1000機と呼号できるだけの航空機が中国に展開することになる予定だった。


 それなのに野中大尉の参加する爆撃の規模が小さいのは。

「取りあえず、まずは武漢周辺の対空防衛網に探りを入れてみるということか」

 野中大尉は思わず口に出して呟いた。


 武漢は長江にも面し、交通の要衝として古来から知られた存在である。

 四川省等からの兵器を最前線に運ぶ中継拠点であり、また、中国各地からの物資の中継拠点にもなっていると中国派遣軍等は推定している。 

 共産中国がここを重要拠点と考えているのは間違いなかった。

 ここにどれだけの防衛が施されているのか。

 それを探るのが主な目的の一つであり、威力偵察も目的とした爆撃行といえるものだったからだ。


 野中大尉の独り言が聞こえたかのように、随伴している戦闘機部隊の長、柴田武雄少佐からの無線が入ってきた。

「先程、行われた99式司令部偵察機の伝単配布の際に、敵戦闘機の迎撃は無かったとのことだ。これまでに何度か行われた99式司令部偵察機の偵察の際にも、敵戦闘機は出撃してこなかった。それから考えると敵戦闘機部隊が大規模にいる公算は低い。敵戦闘機の排除には、我々、16機がいれば充分だろう。爆撃機部隊は、目標に当てることだけを考えてくれ」

「ありがとうございます。必中を期します」

 柴田少佐の言葉は、野中大尉の不安を軽減した。


 実際、柴田少佐の言葉通りだった。

 野中大尉率いる重爆撃機部隊を迎撃したのは高射砲部隊のみだった。

 それも、練度不十分な部隊も混じっていたのか、威力偵察の観点もあり、高度4000メートル程の中高度から野中大尉は爆撃を仕掛けたのにも関わらず、高射機関砲を撃ってきた部隊まであった。

 それも曳光弾の大きさからして、精々20ミリ程度の機関砲だ。

「あんな機関砲撃つだけ無駄だ。高射砲部隊の練度は低そうだな」

 野中大尉は考えつつ、爆弾を投下した。


 とは言え、必中という訳には行かない。

 幾ら米国製の爆撃照準器の性能がいいとはいえ、99式重爆撃機の水平爆撃の精度は高くない。

 それに野中大尉に言わせれば、

「あんなの花火と思え」

 という程度の高射砲の射撃とはいえ、やはり爆撃機乗りにしてみれば高射砲の射撃は怖い。

 推定だが武漢市の操車場に具体的な損害を与えた爆弾は半分にも満たない、という結果に終わり、それ以外は周辺に投下されて、武漢市街地に被害を与える結果になった。

 基地に帰投した後、戦果確認を行った司令部偵察機の報告で、その結果を知らされた野中大尉は苦渋に満ちた顔をしたという。


 これが日本空軍の中国本土における戦略爆撃の皮切りになった。

 鉄道網のみならず、内陸の河川等の水運も、日本空軍の戦略爆撃の目標に付け加えられた。

 これは徐々に中国奥地から供給される兵器が最前線に運ばれるのを阻害するようになり、また、中国各地の物流の流れを阻害し、中国奥地の工場群の稼働を制約するとともに、中国各地の住民の生活にも影響するようになった。

 中国各地の都市の生活維持が徐々に困難になり、都市から農村へ住民を移動させる動きが始まるきっかけとなるのである。

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