第4章ー9
実際、井上成美中将と大西瀧治郎少将の会話は、間違ってはいなかった。
米本国から来た米陸軍航空隊のアーノルド将軍は、とんでもない主張を日本空軍に対して行い、ルメイ少佐等、アーノルド将軍の部下達も、対共産中国戦争を終わらせるためには必要だ、とアーノルド将軍の主張を全面的に支持して後押しする始末だった。
「中国人を生かしておく必要など全くない。我々に抵抗するのなら、毒ガスでも何でも使って老若男女を問わずに中国人を皆殺しにするのだ。良い中国人は死んだ中国人だけだ」
「1月毎に20万トンの爆弾の雨を共産中国に味方する者に降らせろ。共産中国に味方した者は家族も含めて皆殺しだ」
「中国の文化は全くの無価値だ。マニフェスト・デスティニーから言っても、中国全土に米国人が入植してフロンティア開拓を行ってもいい」
アーノルド将軍は、日本空軍の将官との会議の席で、公然と主張し、ルメイ少佐以下のアーノルド将軍の部下の米陸軍航空隊の面々も、アーノルド将軍の主張の尻馬に乗る有様だった。
「さすがに付いていけないな」
さしもの山本五十六空軍本部長も、アーノルド将軍の主張には頭を抱えた。
「米国の人種差別の悪い側面を垣間見た気がしますな」
井上中将も山本空軍本部長に同意して言った。
「かと言って、米国政府、軍の支援なしに中国本土への戦略爆撃をやっても、具体的に目に見えるだけの効果を日本空軍が挙げるのは、とても無理だしな。アーノルド将軍の意見を、ある程度は我々が取り入れないと、米国政府、軍もへそを曲げて我々への支援を渋る可能性が高い」
「おっしゃる通りです」
山本空軍本部長と井上中将は、更なるやり取りをした。
「仕方がない。妥協案で落としどころを探ることにするか」
山本空軍本部長は、妥協、落としどころを探ることにした。
「言語の違いもあり、日本空軍と米国陸軍航空隊が、密接に連携して戦略爆撃を行うのは困難だ。それぞれが攻撃目標を設定し、それに対して攻撃を行う。その効果をお互いに判定し、より効果的とみられる攻撃目標に対して、更なる攻撃を行うことにする」
日本空軍上層部と米国陸軍航空隊上層部が、何度かの会議を行った末に中国本土に対する戦略爆撃方針について、最終的に妥協してまとめた文書の内容は、要約すれば上記のようなものだった。
(言うまでもなく、正式な文書は、上記のものより遥かに長く詳細である。)
なお、この戦略爆撃方針は、後に極東方面においてソ連に対しても適用されることになる。
そして、日本空軍は鉄道に対する爆撃を好んで行うようになる。
それに対して、米国陸軍航空隊は中国の都市に対する爆撃を好んで行うようになった。
(勿論、日本空軍が中国の都市に対する爆撃を全く行わなかった、という訳ではないし、米国陸軍航空隊が鉄道に対する爆撃を全く行わなかった、という訳でもない。
あくまでも、それをお互いに好んで行ったという話である。)
日本空軍と米国陸軍航空隊の妥協がなり、日米の重爆撃機部隊が中国本土に展開を完了するのには、それなりの時間が掛かった。
日米の重爆撃機部隊が、中国本土で積極的な活動を開始できるようになったのは、結果的に11月に入ってからだった。
11月初めのある日、野中五郎大尉は、南京近郊の飛行場から武漢市内にある操車場を目指しての最初の爆撃行に向かっていた。
一応、中国の民衆に対する被害を少しでも迎えるために、攻撃の1時間前に警告のビラ、伝単が目標近辺に撒かれることになっている。
「ビラ、伝単をどこまで信用してもらえるかな」
野中大尉は思わず独り言を呟いて目標へと向かった。
その横を、頼もしい味方、護衛の99式戦闘機が付いてきていた。
アーノルド将軍に対する偏見が過ぎると言われそうですが、私が図書館やネットで調べた限り、こういった方だったようなので、そのように描写しました。
(後述しますが、ルメイ将軍(史実での最終階級ですが)も似たような描写になります。)
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