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第4章ー7

 中国内戦介入以来、個々の戦闘において、日本陸軍は常勝不敗といって良い戦果を挙げ続けている。

 第二次世界大戦勃発に伴い、ソ連軍への侵攻に対処するため、中国派遣軍は完全な守勢に転じてはいたが、それでも個々の戦闘で不敗なのは続いていた。

 問題は、その勝利が戦争終結につながっていないことだった。


「ヒドラの首のようなものだな」

 参謀長の今村均中将は、赤柴八重蔵少将の発言を聞いて、口に出さずに考えた。

 中国派遣軍の将兵の質は高いとは言えない。

 どうしても精鋭は、対ソ戦線に投入されてしまうことになり、いわゆる二線級の将兵が中国戦線を支えることになる。

 それでも勝てるのは、質的に共産中国軍が遥かに劣りつつあるからだ。

 だが、共産中国軍の兵の数が、馬鹿にならない。


 中国派遣軍の推測では、共産中国軍の兵力は300万人をどうみても超えている。

 一方、中国派遣軍は後方部隊までかき集めても60万人に満たない。

 そして、共産中国軍は、その300万人を失っても、質はともかく量はすぐに補充ができる。

 現在の共産中国の人口は、約4億人と推定されている。

 国内防衛戦争であることを考えれば、共産中国政府は4000万人以上を動員することが究極的には可能とさえ、日米満韓連合軍に推定されている。

 その一方で、日本の人口はその2割にも満たない程度だし、更に欧州に派兵せねばならないことを考えれば、国力的には200万人程の動員をするのが精一杯といえた。

 その補充の余りの差に、中国派遣軍は手を焼き、現場の将兵は疲弊するという現状があった。


(勿論、そのような大動員を行った場合は共産中国の国力的に、かなり無理な負担を強いることになる。

 それに、共産中国では、それだけの部隊を動員しても、その部隊に配備するだけの兵器に事欠く有様になりつつあるというのも、一つの現実ではあった。

 共産中国の友好国である独ソ共に、自国が戦争に突入しており、独ソへの共産中国への兵器の供給はほぼ無くなってしまい、それこそ共産中国国内での生産のみで、自国の軍の兵器を確保せねばならない現状に共産中国軍は陥りつつあった。

 そして、そのために航空機や戦車といった兵器は、現在の共産中国軍からはほぼ消滅といっても過言ではない有様となっていた。)


 そうは考えても。

「赤柴少将の発言は、もっともだ。だが、現在の戦線を当面は維持したい。対ソ戦線が一段落した後、対ソ戦線に向けられていた兵力を転用し、共産中国を打倒する方向で我々は行きたいと思う。勿論、余りにも共産中国軍の攻勢が激しい場合は、局所的な退却も考える」

 今村中将は言った。

 その言葉を聞いた赤柴少将も、今村中将の発言に渋い顔をしながらも、積極的に反論はしなかった。


 実際、江蘇省等の華北、華中の中国沿岸部の穀倉地帯を、日本軍が確保していることは、じりじりと共産中国政府の国力に打撃を与えていた。

 国民に重税を課し、様々な専売を行うことで、戦争遂行の資金を確保しようと共産中国政府はしているらしいが、共産中国政府の通貨の信用は落ちる一方で、闇レートを信じるならば、共産中国では1年間に物価が2倍以上になるインフレが起きている、と中国派遣軍では推定していた。

(なお、共産中国の発表する公定物価ではインフレ等全く起こっていないことにはなっているが、こういった場合、公定物価と闇レートとどちらが信用できるかというと。)

 穀倉地帯を共産中国政府の手に渡すことはできない、それが今村中将の考えで、中国派遣軍の幹部の多くの考えでもあった。


 こうした状況から、今村中将らは占領地の縮小に反対せざるを得なかった。

 そして、その意見が中国派遣軍の会議の結論として採用された。

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