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第1章ー3

「レヴィンスキー将軍、初めてお目にかかります」

「北白川宮大将、こちらこそよろしくお願いします」

 ポーランド軍総司令部を訪問した北白川宮大将とレヴィンスキー将軍は、お互いに敬礼し合った。

 土方歳一大佐を事実上の通訳として、二人は会談を始めた。

 その周囲には、双方の幕僚がいる。


「私も、1918年の独軍最終攻勢を、英仏軍が粉砕した故事に基本的にならうべきとは考えます。ですが、あの時とは事情が違う。今では航空隊と戦車の組み合わせにより、戦線を大きく突破できる時代ですからな」

 レヴィンスキー将軍は、自説を展開した。

「確かにそうですな」

 北白川宮大将は、その言葉に同意した。


 土方大佐は二人の会話を聞きながら、ふと回想した。

 考えてみれば、この二人はあの時、共に大尉で敵味方に分かれて対峙していたのだ。

 レヴィンスキー将軍は、マンシュタインと名乗っており、独陸軍の士官だったのだ。

 そして、北白川宮大将は、言うまでもなく日本海兵隊の士官だった。

 20年余り後、この二人が肩を並べて共闘すると、誰が予想できただろうか。

 しかも、レヴィンスキー将軍に至っては、独の敵となっている。

 確か、レヴィンスキー将軍は、第一次世界大戦における独陸軍の英雄にして大統領を務めたヒンデンブルク将軍の義理の甥だというのに。

 歳月の流れはむごい事態を引き起こすものだ。


「それで、更に気になることがあります。独軍の攻勢は、どこで行われると考えますか」

 北白川宮大将は、レヴィンスキー将軍に問いかけた。

「地図を見ながら、検討しませんか」

「いいですな」

 レヴィンスキー将軍は、北白川宮大将に提案し、北白川宮大将は同意した。


「北から南へと検討していきましょう。オランダからの攻勢というのは?」

「私だったら、助攻は行いますが、主方面にはしません。地形が悪い」

 北白川宮大将の問いかけに、レヴィンスキー将軍は即答した。

「地形ですか。一見すると平坦ですが」

 土方大佐は、つい、口を挟んだ。


「オランダの軍事史を振り返れば、一目瞭然です。あそこは低地帯です。もし、洪水戦術を使われては虎の子の戦車、自動車部隊は自滅します。それこそ、大佐の父上がスペインでやったではないですか」

「レヴィンスキー将軍もご存知でしたか」

 レヴィンスキー将軍の言葉に、その場にいた石原中将は顔をほころばせた。


 スペイン内戦における共和派軍の最後の賭け、エブロ河会戦において、土方大佐の父、土方勇志伯爵はエブロ河において洪水を発生させ、共和軍の戦車部隊を孤立させて、殲滅している。

 洪水戦術は韓信らも使った極めて古い戦術だ、と土方伯爵は謙遜するが、それを活用して勝利を収めたのは、土方伯爵の手腕だった。

 その際に石原中将は、土方伯爵の参謀長として手腕を振るったのだ。


 そして、オランダは国土防衛のために、17世紀以来、洪水戦術を採用しており、今でも維持している。


「もし、ノルウェー侵攻作戦において、独軍の空挺部隊が大損害を被っていなかったら、オランダに対して空挺部隊による奇襲攻撃ということが可能かもしれませんが、ノルウェー侵攻作戦において、独軍の空挺部隊は大損害を被っておりますし、輸送機もかなりの数を失っているとか」

 レヴィンスキー将軍は、ノルウェー救援作戦に赴いていた石原中将に笑顔を向けた。

 石原中将は、更に顔をほころばせた。


「だから、独軍が空挺部隊を活用して、オランダに対する奇襲攻撃を行うことはできません。そうなると正面攻撃を独軍は行うしかありませんが、洪水戦術に対し、戦車や自動車部隊は極めて弱い存在だ。だから、歩兵主体で独軍は攻勢を行うしかありません」

 レヴィンスキー将軍は、そのように断じてみせた。

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