第4章ー4
極東方面の情勢説明等は終わり、現地における対処方法の話になります。
まずは満州における対処です。
大本営連絡会議の結論は、国内外の枢要な箇所に伝達された。
米国の政府、軍にも伝えられ、また、関東軍等にも伝えられることになった。
そして、米国の政府、軍も日本の大本営連絡会議の結論を基本的に受け入れて、今後の極東部における軍事戦略、作戦の基本方針とすることになった。
また、少なからず話がずれるが、こういったことが欧州でも起こるようになったことから、第二次世界大戦の戦争遂行に際しては、少なくとも米英仏日4か国の大軍事戦略、作戦を一致させるべきという各国の政府、軍高官の声の高まりが無視できなくなるようになった。
それ以外の参戦国(欧州部においては、オランダ、ベルギー、ノルウェー、自由ポーランド(亡命政府)、極東においては満州国、韓国等が参戦している)にしても、ある程度は大軍事戦略、作戦が一致されて運用された方が、戦争遂行の観点からすれば望ましいことは言うまでもない。
こうしたことから、各国の将官クラスを集めた連合参謀本部創設の動きが高まるのだが、それは今少し先の話になることになる。
話を元に戻す。
大本営連絡会議の結論を受け、9月半ばのある日、関東軍司令部では、隷下にある各軍司令官や師団長を務める将官が集まり、今後の作戦の詳細を詰める会議が開かれていた。
「実際問題として、大本営連絡会議の結論に対して、意見具申という形で反論を述べたい者は忌憚のない意見を述べてほしい」
関東軍参謀長の樋口季一郎中将の問いかけに、会議の参加者は、がやがやと隣同士で話を始めた。
ソ連軍の手から、ハルピンを奪還することで、いわゆる東清鉄道本線の切断に完全に成功した現在、満州にいる日米満連合軍は戦果拡大の好機と逸り立っている現状があった。
また、ソ連軍も、昨年9月の開戦以来、これまでに延べ100万人以上に達すると(日米満韓連合軍内部では)推定されている膨大な死傷者を出したことから、一旦、自国領内への撤退、部隊の再編制等が決まったらしく、満州領内からソ連軍の大部分は撤退しつつあった。
だが、その一方で、ソ連軍の一部の部隊は懲罰部隊扱いを受けたようで、大興安嶺山脈等の満州の山岳地帯に立てこもり、日米満連合軍の足止めを図ろうとしている状況にあり、こういった部隊を日米満連合軍が掃討するのには、それなりの時間が掛かると見られていた。
山下奉文中将が、まず口火を切った。
「満州の山岳地帯に立てこもっているソ連軍の残存部隊ですが、決して無視できる状況にはない、と私は考えます。どうも住民の一部も、ソ連軍に協力している節があります。我々は作戦上は止むを得ませんでしたが、北満州から速やかに撤退したこともあり、北満州の住民の一部は、我々は満州国政府等から見捨てられた、ソ連軍に協力せざるを得なかった、と考えているようです。そういった住民が、残存しているソ連軍に陰に陽に手助けしていると見られます。元々、北満州はソ連から近く、住民の間に親ソ感情はそれなりにはあったようです。また、ソ連軍の宣撫工作は、いざという時の満州侵攻に備えて従前から行われていたようで、そういったことも、残存ソ連軍と住民の一部が協力する事態を招いていると考えます。こういったことから考えると、暫くは満州領内の鎮定作戦を行わざるを得ないと考えますので、大本営連絡会議の結論は相当かと考えます」
その言葉に会議に参加している将帥の多くも同意する気配を示した。
牟田口廉也中将も発言した。
「そうはいっても、ソ連領への侵攻作戦の準備も必要だろう。来春にはソ連領へ侵攻作戦を展開せねばなるまい。どのような侵攻作戦を我々は展開するのか、今から準備をせねば間に合わないのではないか」
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