第4章ー2
「だが、あくまでも共産中国が徹底抗戦する、というのなら、山本五十六空軍本部長らの主張を受け入れて、こちらも徹底的にやらざるを得ない」
前田利為中将は軍人としてそう考えざるを得なかった。
共産中国が一切、講和を受け入れずに、それこそ中国本土のみならず、満州や朝鮮半島から、日米が完全撤退して、中国本土や満州、朝鮮半島までも中国領と認め、更に日米が中国の民衆が被った被害を償うだけの多額の賠償金を支払うまで戦う、と公言されては、こちらもそれ相応に戦わざるを得なくなる。
前田中将に言わせれば、国民あっての国家であり、ある程度の被害が国民に出たら、講和をすべきではないか、と思うのだが、ソ連にしても、中国にしても、共産主義国家においては、国家あっての国民であり、国民は国家を守るために積極的に犠牲になるのが当然らしかった。
「共産中国がそう考えるならば、こちらも徹底的にやらざるを得ない。多分、大本営もそう考えて戦略、作戦を立てざるを得ないだろう」
前田中将は、そこまで突き詰めて考えざるを得ず、陸海軍の上層部に報告書を提出せざるを得なかった。
前田中将の報告書を読んだ陸海軍の上層部は、深刻に考えざるを得なかった。
前回の世界大戦が、遥かに楽な世界大戦だった、とまで梅津美治郎陸相等は考えた。
余りにも軍事機密に掛かると考えられた部分は削除されて再編集され、米内光政首相等の政府の最上層部に前田中将の報告書は提出されたが、そこでも同様の反応が垣間見られることになった。
「軍部としては、どのような軍事戦略、作戦をもって、この大戦は終わらせようと考えている」
1940年9月上旬のある日、大本営政府連絡会議の席上において、米内首相は陸海軍の統帥部に問いかけていた。
本来から言えば、陸海軍の統帥部からは、陸軍参謀総長と海軍軍令部長の2人しか出席しない筈だが、陸軍参謀本部次長と海軍軍令部次長も参加しているために、陸海軍の統帥部からは6人が出席している。
(陸軍参謀本部次長は、陸軍と空軍から2人が選任されている。
また、海軍軍令部次長は、海軍と海兵隊から2人が選任されているためだった。)
永田鉄山参謀総長と吉田善吾軍令部長は、思わず目で会話してしまった。
米内首相の方が、2人よりも軍人として言えば年長であるし、戦歴も格上だった。
下手なことを言うと、徹底的に追及されかねない。
とは言え、米内首相からの問いかけに答えない訳には行かない。
最終的に永田参謀総長が腹を括って答えざるを得なかった。
「陸海軍の統帥部としては、まずソ連を叩くのが至当と考えています。ソ連極東領を占領し、更にイルクーツク近辺まで占領地帯を広げます。その後、占領したソ連極東領への治安維持部隊をある程度遺した上で、中国本土に部隊を転進させ、中国本土全土の占領を目指します。勿論、その間に航空部隊を駆使して、中国本土への戦略爆撃を展開し、共産中国政府が屈服するように促します。それまでに共産中国政府が無条件降伏に応じてくれれば幸いなのですが、最悪の場合、中国全土を占領下に置かねばならない事態が生じることも覚悟せざるを得ないと考えています」
永田参謀総長はそのように述べ、吉田軍令部長もその横で、その言葉に肯いた。
「イルクーツク近辺からは西進しないのか」
「地形等の問題から、そこまでの前進に止め、ソ連政府の打倒は、ソ連欧州部の進軍に託すべきであると考えます。我が国の国力的に、イルクーツク近辺までの進軍もかなりきついものがあります」
米内首相の質問に、永田参謀総長はそう答えた。
「確かにそうだな」
永田参謀総長の答えに、米内首相は暫く考えた末、そう答えざるを得なかった。
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