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第4章ー1 極東戦線の泥沼化

 第4章の始まりになります。

「頭が痛いな」

 実際に頭痛がしてくる気さえする。

 JDIAの長、前田利為中将は、1940年9月初め現在の極東戦線、対ソ、対共産中戦線の現状についての報告書を取りまとめて、陸軍参謀本部と海軍軍令部に提出する最終準備をしていた。

 報告書の内容に問題はないのか、自分自身の目で確認しようとしていたのだが、いつ、この戦争を終わらせることが出来るのか、どうにも不安が高まる内容になっている。


「為せば成る、という精神論を唱えるトップがいないのが救いか」

 前田中将は、前向きに考えることにした。

 吉田茂外相を右腕とする米内光政首相は、軍人出身とはいえ、衆議院で安定多数を占める立憲政友会総裁でもあり、議会政治家としての顔も持っている。

 国内外に知己がいるし、先の世界大戦の実戦経験もあって、日本政治の舵取りを大きく誤らせはしまい。


 軍のトップにも問題は少ない。

 梅津美治郎陸相と永田鉄山参謀総長が、陸軍全体を睨み据えているし、吉田善吾軍令部長には、私はやや不安があるが、堀悌吉海相が海軍全体を抑えている。

 開戦から1年が経つが、大本営において陸海軍の対立も波立っておらず、鈴木貫太郎枢密院議長がその話を聞いて、

「日露戦争の際に旅順要塞を巡って大喧嘩をした陸海軍の将帥に、今の光景を見せたいものだな」

 と冗談を飛ばしたという話が、自分の耳に入るくらいだ。

 しかし、そうは言っても戦況全体が明るいかというと。


「戦争の終わらせ方が、私の目には見えてこないのだよな」

 頭脳明晰をもってなる前田中将の目でも、どうにも見えてこない。

 表面上は、日本軍は米国等の支援もあり、極東戦線で優位に転じている。

 では、この後、戦争をどう終わらせるのか。


 米国のルーズベルト大統領等の主張は明確だった。

「独ソ両国政府は無条件降伏。共産中国は蒋介石の軍門に下り、蒋介石主導の下で中国は再統一される。それで世界大戦を終わらせる」

 そして、日本の米内首相等も、基本的には同意していた。


「確かに、それができればいいだろうが。どこまで戦争を続けるつもりだろう。独全土の占領なら何とかなるだろう。しかし、中ソ全土の占領等、幾ら日米英仏等の総力を挙げて行うとはいえ可能なのか?おそらくそこまでのことをしないと、ソ連は降伏しないだろうし、共産中国も手を挙げないだろう」

 前田中将は考えを巡らせた。


 中国の民衆は、中華主義の影響からか、アヘン戦争以来、排外主義者が圧倒的多数になっている。

 岡村寧次中国派遣軍総司令官は、懸命に中国本土において宣撫工作を続けており、大雑把に言って河北省、山東省、河南省、江蘇省、安徽省、浙江省の大部分を日満連合軍の統治下に置いている。

 とは言え、山東省や江蘇省はほぼ鎮圧したものの、それ以外の省では共産中国と接しているためもあり、共産中国を支持するゲリラの跳梁を防いでいるとは言い難い。

 そして、そのゲリラを排外主義の民衆が支持しているという現状があった。


「民衆とゲリラを切り離さねばならないのだろうが、蒋介石にしろ、排外主義の中国の民衆にしてみれば、中国を日本に売り渡した漢奸だからな。本当に厄介極まりない」

 前田中将は、更に思った。


 こうした現状から、日米では強硬論が噴き出している。

 この際、徹底的に共産中国を叩くべきだというのだ。

 共産中国は宣伝していた。

「中国の民衆は、侵略者を許さず、中国全土が焦土となっても戦い抜くだろう」

「我々には銃や大砲が無くなっても、三億本の竹槍がある。中国の民衆は、まだまだ戦える」

 前田中将に言わせれば、単なる対内外への宣伝臭しかしない代物だが、山本空軍本部長らにしてみれば、こちらも徹底的にやるしかない、という主張になっていた。

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