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間章ー5

 アランがそんなことを想っているとは露知らず、総司も想いを巡らせていた。

 自分の父はヴェルダンの土となっている。

 アランの父も日本海兵隊士官だったそうだが、同様に戦死した身だ。

 考えてみれば、勇の父、歳一だけが先の世界大戦を生き抜いているのだ。

 勿論、歳一が世界大戦に赴いたのは1918年になってからなので、割り引かないといけないが、それでもインフルエンザの猛威もあり、勇の父の同期生も世界大戦で多くが亡くなっている。


 自分は生きて帰国し、妻子と逢えるだろうか。

 そして、義兄の勇やここにいるアランも。

 勇は娘、和子が産まれており、自分の異母姉でもある妻の千恵子も元気らしい。

 アランも連れ子とはいえ、妻子がいる。

 自分に子どもがどちらだったのか、連絡が届くのは、2月余り先の11月も下旬以降だろう。

 妻が子を抱いて、笑顔を浮かべている写真が早く届かないものだろうか。

 総司は、物思いに耽ってしまった。


 義弟2人が物思いに耽ってしまったのを見た勇は、自分も黙って暫く2人を見守りながら、想いを巡らせることにした。

 和子の百か日の祝いは、少し朝晩が過ごしやすくなるお盆過ぎに行うと、先日、届いた千恵子が書いてきた手紙には書いてあった。

 ということは百か日の祝いは終わっているな。

 同封されていた写真には、千恵子と産まれて1月程経った和子が写っていた。

 美人に育つと言いな、とつい気の早い考えをしてしまった。


 時代がそう流れてきただけだと言えば、それまでだが、自分も生まれた時には、父、歳一は欧州にいて独軍と戦っていた。

 父、歳一が産まれた時には、祖父、勇志は遼東半島で清軍と戦っていた筈だ。

 今、自分は欧州にいて、日本は共産中国と独、更にソ連とも戦っている。

 初の子が産まれた時に、自分も父も祖父も戦場にいて、妻の傍にいれなかった。

 それが土方家の宿命なのだろうか。


「嫌な宿命だな。初めての子どもが産まれる際には、常に戦場にいるとは」

 勇は、思わず口に出してしまった。


「「どういうことだ」」

 思わず、物思いに耽っていた総司とアランが、異口同音に言った。

「すみません。口に出してしまって。初めての子が産まれたのに、戦場に赴いていて、愛妻の傍にいれなかったな。考えてみると父も祖父もそうだったな、と思うと。つい、口に出てしまいました」

「そういえば、そうだな。勇の父の土方歳一大佐は、勇が産まれた時は世界大戦で欧州に出征中、祖父の土方勇志伯爵も、歳一大佐が産まれた時には日清戦争で中国大陸で戦っていたそうだな」

 勇の弁解に、総司がフォローを入れた。

「それは、また」

 アランも、何とも言えない表情を浮かべた。


「土方家の宿命とは重いものですな。初めての子が産まれる際には、常に父は戦場ですか」

「こんな宿命は無くしたいものですよ。自分の子には、そんな宿命は負わせたくないものです」

 少し沈黙が続いた後、アランがそう言い、勇がそう返した。

「全くだな。そんな宿命は無くした方が良い」

 総司がそう言い、アランと勇も肯いた。


「湿っぽい話をしてしまいました。これからの話をしませんか。ダヴー大尉が前線に赴かれるのですから」

 勇が、沈黙を破るためもあり、そう言うと総司とアランも肯いた。

 3人共、実は自分の物思いに耽る余り、沈黙してしまったことに気まずい思いをしていたのだ。


「欧州ではオランダ、ベルギーを独軍から取り戻さないとな。日米の助けがあれば年内には可能だろう」

「極東でも満州をソ連軍を年内には追い出せるでしょう。ただ、ソ連領内に攻め込むのは年明け、来春になるでしょうね」

「そうなるでしょうね」

 3人は、その後は今後の見通しを話し合いつつ思った。

 早く妻子の下に帰りたいものだ。

 間章の終わりになります。

 次から第4章になります。


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