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間章ー4

 場面が変わります。

「四姉弟」の弟2人と土方勇の会話の場面になります。

 同じ頃、岸総司はそんなことは露知らずに、義兄の土方勇と子どものことを、駐屯地の近くの酒場で話し合っていた。

「もう少ししたら、俺も子どもができるな」

「どちらですかね」

「男の子が欲しいが、女の子でもいい。勇は女の子だったな」

「ええ、和子です」

「いい名前だな。俺の子は、どういう名前になるかな」

「全く仕方ないとはいえ、自分の子の名づけに関われないのも、どうかと思いますね」

「全くだな」

 総司と勇は、こぼしあった。


 お互いに実は、子どもの名を自分も関わって決めたい。

 しかし、今は欧州にいて子どもが産まれた際には近くにいることはできないのだ。

 それにお互いの祖父が健在で、初曾孫の名付けを楽しみにしているのを見せられていては。


「あの状況で、名前を決めたから、これにしてほしい、という訳には行かないよな」

「そんなこと言ったら、初曾孫だから譲れ、と一喝されそうでした」

「孫の多い土方のところでさえ、そうなのだから、家ではもっときつい。祖父にとって、実の孫は自分も含めても3人しかいないからな。しかも他の2人は完全に別の家に行っているし」

 総司と勇はお互いにぼやいた。


「少し遅くなったようですみません」

 そこにアラン・ダヴーが現れた。

「いやこちらも来たばかりですよ」

 総司が答えた。


 秋に向かう中、日米から増援が来ようとしているのを好機として、英仏日米等の連合軍は秋季攻勢を計画している。

 それに伴い、仏軍も大人事異動を発令していた。

 アランは、その一環として、仏軍総司令部勤務を外され、前線勤務を命ぜられたのだ。

 それを知った総司と勇が、暫く会えなくなるから、ということで酒席に誘ったという次第だった。


「お子さんの話をしていたようでしたが」

「ええ。総司に子どもが間もなく生まれるので、どちらかなと話していました」

「羨ましい。私には実子がいないので」

「そういえば、そうでしたな。ピエールは、奥さんの連れ子でしたな」

 勇とアランは話し合った。


「子どもの名付けの話もされていたようでしたが」

「ええ。夫婦で話し合って決めたいのですが、総司は、ここにいますから、子どもを名付けるのは、総司の祖父が一番、声が大きい、という話をしていたところです」

「家族が多いのは良いことですよ」

 アランの声に少し陰があるのに、勇は気づいた。

 そう言えば、そうか。

 勇は、アランの家族について想いを巡らせた。


 アランは、父を全く知らないし、母のジャンヌにしてもアラン以外に身寄り、家族はいないと言っても過言ではない。

 アランからすれば、母方の祖父母も母方の伯父も、アランが産まれる前に死んでおり、従兄弟もいない。

 更に、アランの母のジャンヌは、(勇の把握している情報に間違いなければ)元々マルセイユの出身の筈なのだが、アランにはトゥーロン近郊の出身で、色々と地元にいる際にトラブルがあり、地元とは縁を切った、と言っているらしい。


 それはそうだろう、と勇は想った。

 幾ら息子とはいえ、かつて街娼として客を取っていたと母ジャンヌは言えまい。

 かつての過去を消すために、出身についても偽っている訳だ。


「少し不味い話をしましたか」

「いえ。気にしないでください。これから増やせばいいと思っていますから」

 勇の声掛けに、アランは言いながら、想いを巡らせた。


 バレンシアのカサンドラ。

 彼女は無事に、自分の子を産んだだろうか。

 そして、母子共に生きているだろうか。


 祖国の為に、と遠く離れたここフランスに目の前の2人は来ているが、その代わりに家族とは引き離されてしまっている。

 全く見知らぬ亡くなった自分の父もそうだった。

 そして、自分はスペインでカサンドラに出会い、妊娠した彼女を遺して帰国してしまった。

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