第3章ー20
実際問題として、小畑敏四郎大将の心配は決して杞憂ではなかった。
この頃から、中国本土の戦線はより一層の泥沼化を呈する有様となるのである。
これには幾つかの要因があった。
まず、第一に、日米等の政府、軍が使嗾したモンゴル、ウイグル、チベット等といった少数民族の共産中国に対する武装蜂起の頻発が、この頃から表面化して起こり出したことである。
実際問題として、民族、宗教問題を煽って、ソ連、共産中国を混乱させるという事は、効果的であることが日米等の政府、軍には予め分かってはいたが、第二次世界大戦勃発までは分かってはいても、躊躇われる作戦ではあった。
何故なら、民族、宗教問題を煽って、ソ連、共産中国を分裂、崩壊させたとして、その後をどうするか、というと、更に混乱した状況を招いてしまい、下手をすると逆恨みをされて、日米等が標的になるという危険があるという事が、日米等の政府、軍の上層部には分かっていた。
だが、第二次世界大戦勃発に伴い、これ以上の悪い事態にはなるまい、というある意味では無責任な考えから、日米等の政府、軍の上層部は方針転換を行った。
そして、中国本土においては、モンゴル、ウイグル、チベット等の少数民族の武装蜂起を、日米等の政府、軍の上層部は積極的に支援するようになり、それによって少数民族の武装蜂起が表面化する事態が起こるようになっていたのである。
第二に、ソ連政府、軍から共産中国に対する反攻の要請である。
満州におけるソ連軍の戦況は、ソ連軍に徐々に不利になりつつあった。
こういった状況を打開するのに、極めて効果的な手段の一つが、共産中国軍の中国本土における攻勢作戦なのは言うまでもなかった。
共産中国軍が攻勢を取れば、否応なしに日米満連合軍もそれに対処せざるを得なくなり、深刻な状況に至れば、満州でソ連軍に対する攻勢に投入されている部隊さえ引き抜いて、中国本土に投入せざるを得ない状況に陥るとソ連政府、軍は考えたし、日米満連合軍及び日米満の各国政府も暗黙裡に同意せざるを得ない有様だった。
そして、共産中国政府、軍にしてみれば、中国本土のみならず満州まで自国の政府の統治下に置くのは当然の話であり、ある意味では悲願と化していた。
こういった背景もあり、共産中国軍のゲリラ活動は激しくなっていた。
そして、第三の事由になるが、このような共産中国のゲリラ活動は自らの首を絞めるものでもあり、共産中国の支配下にある土地の荒廃を推し進めることにもなっていったことである。
兵士として動員されるのは、基本的に若い男性が主力になる。
だが、これは一方では農村における働き手でもあった。
若い男性がいなくなるという事は、米国等の機械化が進んだ農業地帯ならともかくとして、人力、畜力に頼る共産中国のような農業地帯では、農業生産の低下をてきめんに招くことであった。
(だからこそ、第二次世界大戦中の日韓は、同盟国たる米英等から半ば非難されながらも、そうそう米英等並みの人口の1割を超えるような動員を行うことに躊躇いを覚え、実際には行うことはできなかった。
中韓程ではなかったが、日本もまだまだ米国並みには農業の機械化は進んでいなかったからである。
自国の農業を維持するために、日韓にとって過度な動員はとても無理な話だった。)
これに対処するために、共産中国が唱えたのが、
「智将は敵に食む」
という孫子の迷言であった。
この言葉の意味は、兵に対して敵地での略奪により自活することだ、と教えて、それにより、ゲリラ活動を活発に行い、敵地の物資を奪うことに努めさせたのである。
だが、このことは共産中国軍の軍紀を荒廃させ、戦争被害を拡散させたのだ。
第3章の終わりです。
次から5話は、本編から少し外れた間章になります。
(別に読まなくても、これ以外の本編自体は分かる話になります。
間章は「四姉弟」が出てくる半日常パートです。)
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