第3章ー19
それと相前後して、日米満連合軍はいわゆる旧満州国領内からソ連軍を追い出し、急速に満州国をソ連軍の手から取り戻しつつあった。
これは、ソ連軍の作戦方針の転換もあった。
1940年5月下旬から開始された日米両軍を中核とする反攻作戦により、ソ連軍の戦線は一撃で崩壊したと言っても、あながち間違いではない敗北をソ連軍は喫した。
この現状から、ソ連軍は、伝統的な奥地に敵軍を引き込んだ上で大反撃を加えて、敵軍を敗北させるというロシアお得意の戦法(それこそナポレオン1世のロシア遠征とその結末が著名ではあるが、それ以外にも大北方戦争のカール12世や動乱時代のポーランドの侵略、また日露戦争においても同様の方策でロシアは対処している。)を採用することにしたのである。
とは言え、余りにも早く旧満州国領内から撤退しては、スターリンの不興を買って粛清されるというリスクが出てくる。
そのために、極東ソ連軍は様々な方策を講じて、スターリンの不興を買わないように努めた。
そして、それによって、日米満韓連合軍は苦悩する羽目になった。
「米軍によってチチハルの奪還には成功したが、やはり民兵隊が足止め役を務めたか」
「東寧等、それ以外でも似たような報告が挙がっています。本当に困ったものです」
1940年の8月後半、小畑敏四郎大将と樋口季一郎中将は、苦悩に満ちた会話を交わしていた。
「ソ連め。正規軍で正々堂々と戦うのが本来だろうに」
「モスクワ放送やベルリン放送は、民兵隊を礼賛する放送を繰り返しています。民主主義を守るために、満州の多くの人民が自発的に民兵隊に志願している。民主主義の仮面を被った日米を民主主義者は決して許さない。真の民主主義を守るために、民主主義者は今こそ立ち上がるべき等々」
「だが、実際には違うのだろう」
「ええ。今日を自分が家族が生き延びるために、民兵隊に志願した者が大半のようですね。占領軍であるソ連軍の指示に従って、民兵隊に志願しなければ、食料等の配給が止められる。そうなっては自分や家族は死ぬことになる。そう考えた住民の多くが、民兵隊に志願しているようです」
「吐き気がする話だな。そして、蒋介石は、民兵隊志願者やその家族を、祖国を裏切り、外国に通謀したとして死刑に処するという訳か」
「もっとも、共産中国も同様、いやもっと酷いことをやっているみたいですがね。日米満が占領している中国本土に住む住民で、自分達に積極的に協力しない住民は、祖国の裏切り者として、問答無用で攻撃対象にしているみたいです。その恐怖から、日米満の占領下にある住民の一部は、共産中国に協力する有様です」
小畑大将と樋口中将は、深刻な会話を続けざるを得なかった。
「そのような状況とあっては、岡村も苦労しているだろうな」
小畑大将は、陸軍士官学校同期であり、中国派遣軍総司令官である岡村寧次大将のことを思いやり、そう呟かざるを得なかった。
岡村大将は、中国派遣軍参謀長である今村均中将等と協力し、懸命に蒋介石率いる満州国政府に中国本土の住民が帰順するように今も促している。
だが、それは上記のような事情から想うように進んでいないらしい。
それどころか。
「山本五十六空軍本部長等は、ペトロパブロフスク=カムチャッキー攻略作戦が終わったことにより、千島等に派遣されていた日本空軍の重爆撃機部隊を中国本土に向ける方向で次期作戦を検討している模様です」
その呟きを聞いた樋口中将は、声を潜めて小畑大将に言った。
「何だと。そんなことをしたら、中国の民衆に大量の被害者を出してますます反日米満感情を高めることになりかねないぞ」
小畑大将は愕然とし、樋口中将は無言で肯いた。
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