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第3章ー18

 だが、実際にハルピン攻略作戦に参加していたら、右近徳太郎中尉は心を病む羽目になっていただろう。

 1940年7月、日米連合軍はハルピン攻略作戦において、苦悩しつつ戦う羽目になった。


「厄介だな。かと言って攻めない訳にはいかない」

「南京を敢えて攻めずに戦争を事実上は終えることができた土方勇志伯爵が羨ましいですな」

 思わず半ば現実逃避の会話を、小畑敏四郎大将と樋口季一郎中将はハルピン攻略作戦発動早々にかわす羽目になっていた。

 

 事前情報では、ハルピンに立て籠っているのは、ソ連軍6個師団(実質的には4個師団相当)の兵力のみの筈だった。

 だが、ハルピン市民の一部が、ソ連軍に自発的にか、それとも強制されてか武装した民兵隊として、日米連合軍に銃を向けていたのである。


「蒋介石に頼んで、満州国軍を前面に出すか?」

「逆効果でしょう。蒋介石のことだ。あいつらは、祖国を裏切った裏切り者だ。躊躇わずに民兵隊に発砲しろ、と部隊全体に命令しますよ」

「だろうな」


 小畑大将と樋口中将は、更なる会話を交わした。

「とは言え、満州国の国民に変わりはない。一応、マッカーサー将軍を介して蒋介石に連絡しよう」

「確かに。そうすべきでしょうな」

 小畑大将は(既にクルーガー将軍も報告していたが)マッカーサー将軍に報告し、マッカーサー将軍は蒋介石にこのことを伝えた。

 そして、蒋介石からの指示連絡は、小畑大将らの予想通りだった。


「民兵隊参加者は、外国に通謀し、祖国を裏切った者である。裁判に掛けて、民兵隊参加者全員に名誉ある銃殺刑を与えるのが、相当であると考える」

 樋口中将は、蒋介石からの指示を記載した電文を読み上げた。

 小畑大将は、天を仰いで嘆いた。

「確かに彼らはソ連軍に味方している以上、そう判断されても仕方ない。だが、半年以上もソ連軍の占領下に置かれていたのだ。その中で生き延びるためにやむを得なかったという側面もあるし、そもそもハルピン市民をある意味では捨てて我々は退却したのだからな。少しは慈悲を示しても良いだろうに」

「一応、投降を呼びかけ、それでも投降しない者のみを攻撃しますか」

「そのあたりが落としどころだろうな。それから」


 小畑大将は、声を落として言った。

「投降したり、捕虜になったりした民兵隊の隊員は、武装解除後は余り厳重に見張るな」

「分かりました。各師団長に口頭で伝えます。皆、忖度してくれるでしょう」

 樋口中将も声を潜めて言い、お互いに肯きあった。


 日本軍は、小畑大将の口頭指示を受け、ハルピン市街に本格的に突入し、市街戦を開始した。

 クルーガー将軍が率いる米軍も似たような行動を取った。

 日米両軍共に、幾ら民兵隊とは言え、元満州国の国民に銃を出来たら向けたくなかったのである。

 とは言え、民兵隊が投降勧告に応じない場合は、日米両軍の兵は民兵隊に銃を向けざるを得ず、更には迫撃砲等でも攻撃せざるを得なかった。


 こういった日米両軍にしてみれば、余りにも気の乗らないハルピン市街での市街戦は、8月に入るまで続くことになった。

 さすがに重傷を負って、野戦病院等に入れられた民兵隊員は、どうしようもなかったが、投降勧告に応じたり、軽傷で捕虜になったりした民兵隊員は、武装解除をされた後、姿を消すことが多発した。

(その後、何故か民兵隊に入らずに、日米両軍に一般市民として保護された住民の数が増えていた。)


「八百長といえば八百長だが。幾ら何でも民兵隊員とはいえ、ハルピン市民を殺したくはないからな」

「確かにそうですな。我々ができるのはこれくらいです」

 8月初めに全守備隊が投降してハルピンが陥落した後、小畑大将とクルーガー将軍は声を潜めて話し合ったのである。

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