第3章ー9
小畑敏四郎大将は、樋口季一郎中将とそんなやり取りをしつつ、想いを更に巡らせた。
手持ちの兵力で何とかするしかないか、これ以上に待つことは、ソ連軍の補充等が欧州から更に駆けつけるという事でもあり、味方よりも敵を利することになりかねない。
「よし。我々が示した基本作戦方針について、米軍の感触はどうだった」
気持ちを切り替えようと、小畑大将は、樋口中将に話を振った。
「まずまず好意的でした。春先の失敗が、クルーガー将軍にはかなり応えているようで、取りあえずは日本軍の提案に同意しようという考えのようです」
「マッカーサー将軍も悪くは無いのだが、どうしても意固地になりがちだからな。下手にわしから作戦の提案を直接にするというのはやりにくい。米軍内部からも言ってもらわないとな」
樋口中将の答えに、小畑大将は少し嘆いた。
マッカーサー将軍は、プライドが高い。
それは日本軍のみならず、米満韓各国軍の間で常識になっていた。
しかもそれなりには有能だから、性質が悪い。
うまくおだてて、こちらの提案する作戦に乗せねばならない。
そう小畑大将は考えて、米軍内部から今回の作戦を発案したように装うことで、今回の作戦をスムーズに実行しようとしていた。
「ところで、今回の基本作戦方針について確認します。まず、ソ連軍の後方かく乱ですが、モンゴル系の民族に、反外蒙古運動を呼び掛けています。徳王殿下等、反共主義、民族主義から我々に味方してくれるモンゴル系が増えており、大規模な武装蜂起の準備が整いつつあります」
「うむ」
これは日米満韓連合軍の策の一環だった。
中華民族主義を唱える共産中国や、共産主義を唱える外蒙古政府は、モンゴル民族主義者達の間では全く人気が無かったのである。
あいつらに味方する位なら、まだ五族共和主義を唱える蒋介石率いる満州国の方がマシということで、モンゴル民族主義者達は、日米満韓に味方していた。
更に言うなら、日米韓は裏で蒋介石率いる中国の国力を削るためにも、モンゴル民族主義者達を積極的に支持していた。
ソ連の半ば傀儡政権ともいえる外蒙古政府打倒の暁には、現在の内蒙古と外蒙古を一体としたモンゴル国の建国を認める、と日米韓の三国政府は内々にモンゴル民族主義者たちに言っていたのである。
その一方で、蒋介石には五族共和主義に反しない限り、中国の統一を認める、とも日米韓の三国政府は言っている。
はっきり言って、第一次世界大戦時の英国のパレスチナ問題に対するアラブ民族とユダヤ民族との問題と同様ともいえる日米韓三国の二枚舌外交だった。
なお、これと同様のことを、第二次世界大戦中に、ウイグル民族やチベット民族に対しても日米韓三国は行っていた。
話がずれすぎたので元に戻す。
「そして、ソ連軍の後方破壊を行いつつ、ソ連軍の戦線を突破して、ハルピンまで戦線を押し上げます。1回で突破というのは、とても無理で何度かに分けて、戦線を突破していくことになるでしょうが」
「それはやむを得まい。何しろハルピンは遠いからな」
小畑大将と樋口中将はやり取りをした。
現在の最前線ともいえる鉄嶺からハルピンまでは道路上での道程を考えると、500キロ近い。
この距離を前進していかねばならないのである。
「基本的には、米軍を左翼に置き、我々が右翼を担当します。本音を言えば、左翼に機甲部隊を集中投入して、奉天会戦の勝利を再現したいところですが、これまでの進撃の経過から言っても、我々が右翼を担当せざるを得ません」
樋口中将は少し渋い顔をしていった。
基本的にソ連軍と対峙している戦線の右翼が山岳地帯なのに対して左翼が平野部だった。
地形的には左翼に機甲部隊を集中したい。
長くなったので分けます。
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