第3章ー8
1940年5月半ば、満州に侵攻してきたソ連軍と日米満韓連合軍の戦線は、この春の日米満が共同して実施した反攻作戦により、遼東半島等を奪還したことに成功したため、熱河省を完全に確保した上で大雑把に言って康平から遼河沿いに鉄嶺へ更に通化を結ぶ線に押し上げられていた。
とは言え、これではまだまだ満州の一部を奪還したに過ぎない。
速やかに満州全土を、日米満の手に奪還する必要があった。
「航空撃滅戦には成功しつつあり、敵前線部隊に対する攻撃も順調か」
日本空軍からの戦果報告を受け、関東軍司令官である小畑敏四郎大将は、取りあえずほっとする想いをしていた。
「この5月22日を期して行われるハルピン方面への侵攻作戦準備は順調のようだな」
小畑敏四郎大将は想いを巡らせた。
そこへ、直接の連絡のために米軍の太平洋方面軍総司令部に派遣していた樋口季一郎中将が帰ってきた。
「どうだ。米軍の準備の状況は」
小畑大将の問いかけに、樋口中将は笑顔で答えた。
「さすがにこの春先の失敗で懲りて、我々の忠告を素直に受け入れ、戦術等を改善しています。マッカーサー将軍は相変わらずですが、クルーガー将軍以下、懸命に頑張っています」
「それは良かった」
樋口中将の答えに、小畑大将は笑みを増した。
(少し補足すると、太平洋方面における日米満韓の陸空軍の総司令官にマッカーサー将軍が既に就任はしていたが、やはり様々な事情から完全には指揮系統が統合されるという事態にまでは至っていなかった。
下手をすると、マッカーサー将軍の指揮下に日本陸軍が完全に入るのは、大日本帝国憲法に定める天皇陛下の統帥権干犯になるのでは、という疑念まで日本の帝国議会で呈されたからである。
そうしたこともあり、関東軍司令部と米の太平洋方面軍総司令部が並立するという事態が起きていた。)
「それで、どのような基本作戦計画が立てられそうなのだ」
「そこが問題です」
小畑大将と樋口中将は、額を寄せ合った。
「米軍は更に兵力を増しており、16個師団に達しています。我々は5個機甲師団と17個歩兵師団で、この春先と兵力は変わっていません」
「うむ」
樋口中将の兵力説明に、小畑大将は少し渋い顔になった。
本当はもっと日本軍も動員したい、しかし、欧州戦線や中国戦線の存在も併せると、既に40個師団を日本は動員し派兵している。
本土を空にするわけにもいかないし、補充兵の準備もいる。
そう言った事情からすると、既に限界に近い動員に達していた。
(当時の日本の人口は、台湾を除いて、約7000万人であり、単純な理屈の上では、日本の人口の1割、約700万人程は少なくとも動員できる計算になる。
とは言え、40個師団を動員し派兵しているという事は、裏返せば、後方も併せれば少なくとも既に約200万人を動員し派兵しているということであった。
言うまでもなく、本土防衛ならまだしも、海外、それも地球の反対側の欧州まで遥々と派兵している日本にしてみれば、独ソ中を相手として戦う以上は長期戦は必至であり、その補充のことまで考えるならばこれ以上の長期動員は、国力的にもできたら避けたい状況だったのだ。)
「もう少し何とか兵力を増やせないのか。陸軍省に対して掛け合うべきだろう」
「お気持ちは分かりますが」
小畑大将の苦渋に満ちた発言に、樋口中将も同様の表情を浮かべながら答えた。
「陸軍省の連絡では10個師団の増設は何とか可能とのことです。しかし、秋以降になるとのことです」
「となると、今回の攻勢には間に合わないという事か」
「仕方ありません。既存の師団への補充も必要ですし、兵器も増産しないといけませんし、無いない尽くしで我々は戦っています」
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