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第3章ー4

 クレメンス少尉にしてみれば、あれだけの砲撃を戦艦等が浴びせても、ソ連軍陣地は健在だったのか、と内心では驚き、呆れるしかなかったが。


 それは戦場での錯覚だった。

 実際には、ソ連軍陣地はガタガタになっていた。


「駆逐艦に命じて、上陸部隊の支援射撃をしろ」

 リチャードソン提督は、新たな指示を下した。

 ここまで敵味方が接近していては、戦艦の主砲では威力が大きすぎる。

 防衛陣地の規模等から、事前に想定していたよりも、ソ連軍の銃撃等は明らかに少ない。

 艦砲射撃はそれなりに効果を挙げていたようだが、ソ連軍の防御陣地を完全に潰せてはいなかったようだ。


 クレメンス少尉にしてみれば、身を切るような冷たい海水だった。

 敵の銃火に焦ってしまい、LCVPの底が付いたと即断して、海に入ったら、まだ深かったために、胸から下が海水に浸かってしまった。

 余りの冷たさに思わず漏らしそうになる。


 味方の駆逐艦が支援射撃を浴びせてくれている。

 駆逐艦の主砲とはいえ、127ミリ砲だ。

 陸上なら充分に重砲で通る代物だ。

 実際、クレメンス少尉の視界内にあり、自分達に銃弾を浴びせていたソ連軍の銃座の一つが沈黙した。


 それが目に入った瞬間、クレメンス少尉は気力が満ちてくる気がした。

「一刻も早く、上陸しろ。上陸次第、敵陣地へ匍匐前進」

 クレメンス少尉は、部下を督励した。

 部下達も、その督励に答え、一刻も早く上陸してしまおうとする。

 クレメンス少尉と部下達は、少々苦戦しながらも、ソ連軍陣地の掃討に取り掛かった。


 5月22日の夕方が迫る頃、上陸地点の砂浜は、米海兵隊の完全制圧下に置かれた。

 その時までに、クレメンス少尉の部下は、1人が戦死し、2人が重軽傷を負っていた。

 クレメンス少尉は、外見上は平然としているように装いつつ、内心ではショックを受けていた。

 部下が負傷するのは、事前に覚悟が出来ていたが、初陣で部下が戦死するとは思っていなかったのだ。

 今は気にするな、ペトロパブロフスク=カムチャッキーが制圧された後で、気にするのだ。

 そうしないと、より多くの部下が死ぬことになる。

(第一次)世界大戦で実戦を経験したという教官の教えを、今の立場に置き換え、クレメンス少尉は、そう自分に言い聞かせた。


 上陸作戦が無事に成功裏に終わり、海岸堡に物資の揚陸が行われ始めた。

 それを自ら双眼鏡で確認した後、上陸作戦を行う米海兵隊の現地司令官のトップであるスミス提督は、部下の参謀達と会議を始めた。


「上陸地点を守っていた部隊の規模は?」

「前線からの報告によると、恐らく歩兵1個大隊程。全力をもって海岸を守ると考えていたのですが、我々に戦艦がいたこと、海岸の要塞(砲台)が事前に日本空軍の爆撃で破壊されたこと等から、海岸での防御を事実上は諦めて、一部を足止めとして残したものと推察されます」

 スミス提督の問いかけに、参謀の一人が淀みなく答えた。


「海岸堡を確保したとはいえ、港ではありませんので、戦車や重砲といった重装備の揚陸は困難です。軽装備の部隊で、ペトロパブロフスク=カムチャッキーを攻めるしかありませんね」

「うむ」

 別の参謀が状況から、そう次の行動を示唆し、スミス提督は頷きながら同意した。


 スミス提督は想いを巡らせた。

 厄介なことになった。

 1個歩兵(狙撃)連隊を基幹とするペトロパブロフスク=カムチャッキー守備隊は、十分に健在だ。

 海岸線でできる限りの損害を守備隊に与え、ペトロパブロフスク=カムチャッキーの防御が不可能な状態にして降伏を促し、それでこの戦闘を終わらせるつもりだったのだが、この状況では、守備隊は降伏勧告に断じて応じまい。

 ペトロパブロフスク=カムチャッキーを強襲するしかない。

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