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第3章ー3

「撃て」

 リチャードソン提督直々の砲撃命令が皮切りだった。

 公算射撃で上陸作戦に対処するために築かれたソ連軍の防御陣地に対して、事前計画によってきめられていた区画ごとに戦艦の主砲等が、一定の砲弾を浴びせていく。


 ペトロパブロフスク=カムチャッキー攻略のための上陸作戦の準備砲撃の始まりだった。 

 14インチ砲92門を最大の主力とする米艦隊の砲撃は、壮観の一語だった。

 戦艦の主砲の一斉射撃の総砲弾量は、92門全てを合わせると60トンには達するのではないか。

 更に戦艦には副砲があるし、巡洋艦、駆逐艦も主砲を撃つことになっている。

 全ての砲弾の重さを合わせるならば、ソ連軍の防御陣地に浴びせられる砲弾の重さは、全部で3000トンに達してもおかしくはない。


「恐ろしい砲弾量だな」

 上空警戒のために(もっとも、既にペトロパブロフスク=カムチャッキー防衛のために展開していたソ連空軍の航空隊は、日本空軍の航空撃滅戦によってほぼ消滅していると判定されており、念のための警戒という趣旨が強かった。)飛んでいる99式戦闘機乗りの柴田武雄少佐は、ついその光景に見入ってしまった。


 本来から言えば、戦艦による対地上砲撃は、余り推奨されるものではない。

 敵の要塞砲等による地上からの反撃で、返り討ちにされるリスクが高いからだ。

 今回、それにも関わらず米戦艦8隻を主力とする艦砲射撃が行われているのは、要塞砲の破壊に日本空軍が成功したためだった。

 後、米戦艦は無駄飯食らいだという陰口を消すためだという噂が漏れ聞こえてくる。


 その噂は事実だろうな、と柴田少佐は考えた。

 日本戦艦は、これまでにもしばしば敵要塞砲の脅威が無い場所では、対地上砲撃に活躍した実績がある。

 米戦艦も、同じことが出来るという事を示す必要もあるのだろう。

 実際問題として、この3月下旬に行われた南満州の反攻作戦においては、日本戦艦が活躍し、米軍に対する地上支援任務まで行ったくらいなのだ。

 それを見せられた米海軍にしてみれば、米戦艦も役立つのだ、とアピールせずにはいられないのだろう。


「無事に上陸作戦は完了しそうだな」

 柴田少佐は、楽観的な思いをしつつ、対空警戒を続けることにした。


 クレメンス海兵少尉は緊張しきって、上陸作戦に臨んでいた。

 これから部下達、1個小隊を率いて上陸していくのだ。

 日本海軍、いや、サムライ、日本海兵隊から様々なノウハウが提供されて、この作戦に挑む以上、成功するに決まっている、と思いたい。

 だが、人生初の実戦である。

 それを想うと、どうにも緊張してならなかった。


「こいつに乗って上陸するのか」

 輸送船から上陸用舟艇のLCVPに乗り移り、内心で呟く。

 自分の部下も併せて36名の乗り込みが完了した。

「行くぞ。海兵魂を見せろ」

「応」

 内心の緊張を覚られまいと入れた自分の喝に、部下も答える。

 その応答を聞くと、緊張が少し緩むのを覚えた。

 LCVPは順調に海岸を目指して、8ノットで進んでいく。

 最高9ノットが出る筈だが、微妙に波が荒く、8ノットが精一杯のようだ。


「あれだけの砲撃を浴びせているんです。ソ連軍の部隊は、誰一人生きてはいませんよ」

 自分の緊張をほぐそうと、部下の下士官の1人が声を掛けてくれた。

 本当にそうだといいのだが。

 実際、敵陣地から射撃をしてこないということは、そのとおりだということかも。


 後少しで海岸線というところだった。

 さすがに味方撃ちの危険を考え、米艦隊からの艦砲射撃は完全に止んでしまっていた。

 LCVPのエンジン音だけしか聞こえない。

 いや。


 ソ連軍陣地から小銃や機関銃、迫撃砲等の射撃が始まった。

「行くぞ」

 クレメンス少尉はLCVPから降りて、突撃を開始した。

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