第3章ー2
それは99式重爆撃機16機から成る中隊だった。
中隊長の野中五郎空軍大尉は、複雑な思いをしながら操縦桿を握っていた。
「現状では別に握る必要は無いのは分かっているのだがなあ。どうしてもなあ」
「自動操縦装置がまだ信用できませんか」
「日本製で、半分試作品に近いと聞かされてはな」
「確かに」
副操縦士である部下と野中大尉は、そんなやり取りをしつつ、99式重爆撃機をペトロパブロフスク=カムチャッキーへと向かわせていた。
「択捉島の天寧飛行場を出撃して1000キロ以上。本当に長い距離を飛んだ末に爆撃を加えることになる。松輪島の松輪飛行場が使えたらいいが、あそこは補給整備に難があるしな」
「確かに。あそこは大型船舶を停泊させられる港が無いですし」
「幌筵島の飛行場では、99式重爆撃機を運用するには近すぎる感が否めない。また、ソ連空軍による奇襲攻撃の危険性を否定しきれない」
「そして、北海道の美幌飛行場からでは、天寧飛行場よりも遠すぎて届かない可能性があるですか」
時間潰しのためもあり、2人はそんなやり取りを、ついしていた。
「全部で40トン近いの爆弾を降らせるのだから、これでソ連軍の要塞を壊せればいいのだが」
「微妙でしょうね。ただ、大型爆弾なのが救いですよ。36センチ砲弾より大きいのでしょう」
「色々とパズルを組むようにして搭載したからな。新型の高雄級戦艦に搭載されている40センチ砲弾までも参考にして作られた800キロ徹甲爆弾が、1機当たり3発搭載されている。全部で48発ということになる」
「我々は、米艦隊の露払い役ですか」
「そういうことだ」
野中大尉は、部下とやり取りを続けた。
ペトロパブロフスク=カムチャッキー防衛を務めるソ連軍の部隊の規模は、歩兵1個連隊を中核とする旅団規模と推定されていた。
単純な兵力量だけから言えば、米海兵隊1個師団が投入され、戦艦8隻が支援に当たるのである。
まず、米軍の攻略作戦に際して、問題は無いといえるレベルだった。
だが、懸念材料が一つあった。
ペトロパブロフスク=カムチャッキー防衛のために建造されていた要塞(どちらかというと砲台に近い存在だったが)である。
様々な諜報活動により、30センチ砲2門をその要塞は備えている可能性大と推定されていた。
さすがにこれだけの大口径砲を備えた要塞が健在のままでは、米軍の戦艦と言えど当たり所が悪ければ、万が一という事態が引き起こされてしまう。
そのために事前に日本空軍の重爆撃機部隊による爆撃が行われることになったのだった。
既に何回かに渡り、波状攻撃を加え続け、投下した爆弾量は、既に200トン近いものに達しているが、最大の爆弾が500キロ徹甲爆弾では、ソ連軍の要塞に対して、今のところは外見上に目立った損害が与えられなかった。
そのために、新型の800キロ徹甲爆弾が投入されることになったのだ。
だが、これでも難しい、本当にあの要塞は上陸作戦が始まる前に破壊することが出来るのだろうか、と野中大尉は内心で考えていた。
実際、野中大尉の予測は半分当たったといえる。
野中大尉率いる99式重爆撃機16機の爆撃だけでは、この要塞は破壊できなかったのだ。
そのため、更に2回の爆撃を加え、ようやく要塞を破壊するという戦果を挙げることができた。
これにより、上陸作戦の最大の障害と考えられていた存在は取り除かれた。
だが、これは第一段階に過ぎない。
実際の上陸作戦が始まる前に、更に艦砲射撃を浴びせ、ソ連軍が日米軍が上陸作戦を展開する場合に備えて築造している陣地帯を破壊せねばならない。
野中大尉が指揮する99式重爆撃機の部隊は、要塞破壊後は陣地帯への爆撃に投入された。
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