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第2章ー12

 96式飛行艇と一口に言われることが多いが、実際には後継機の2式飛行艇(通称、2式大艇)が正式採用される間に、様々な改良が施されている(中には、運用中に行われた改良もある。)。

 そのため、軍用機研究家泣かせの機種の一つとして、実は96式飛行艇は知られている存在でもある。


 例えば、最初に日本海軍航空隊の飛行艇として96式飛行艇が制式採用された時点では、鈴木製の光エンジンを96式飛行艇は採用している。

 だが、三菱製の金星エンジンの能力向上に伴い、96式飛行艇のエンジンは、三菱製の金星エンジンが採用されていくことになった。

 中には、戦闘に伴う損傷修理等によって、光エンジンを取り外して、金星エンジンを搭載した初期量産機さえ96式飛行艇にはあったとか。


 このため、96式飛行艇の実際の生産、装備品の実態については通説が定まっていない。

 一次資料の一つと言える搭乗員の回想等でさえ、歳月による記憶改変だ、という反論、批判等を否定できない有様である。

 だが、その一方で、第2次世界大戦を描く戦記小説家や戦記漫画家にとって、もっとも愛された機種の一つに96式飛行艇はなった。


 そもそも小説や漫画を描く以上、ある程度の虚構がなされるのは、ある意味では必然である。

 そうした際に、96式飛行艇は諸説ある存在である以上、少々虚構を交えた描写をしても、史実だと誤解される存在になり、うるさい批判者にも史実ではない、と批判しにくい存在になったのだ。

 下手に小説等の描写を批判して、史実通りですが、と作者に反論されては、批判者にしてみれば自爆批判になり、大恥をかかされてしまう。

 かといって、96式飛行艇は諸説ある以上、その一つを私は史実と考えて描写しました、と作者に主張されている以上、それを否定するのは、批判者にとっては悪魔の証明になりかねない、という事態を招いたのである。

 本当に、96式飛行艇は困った存在だったと言える。


 そして、ソ連海軍の潜水艦部隊にとって、96式飛行艇は同様に困った存在だった。

 航続距離が長く、執拗に潜水艦狩りを空から行えたからである。

 ソ連潜水艦にしてみれば、水上航行中を96式飛行艇に見つけられたら、96式飛行艇の空からの攻撃を回避できても、執拗な追跡を受けることを覚悟せねばならなかった。

 近くを航行中の対潜狩り専門の水上艦部隊(と言っても、駆逐隊規模が精々だったが)を、96式飛行艇が呼び寄せるのは、しょっちゅうだった。


 96式飛行艇を操る阿部善次大尉は、先日、ソ連潜水艦2隻を通算で確実に沈めたと判断されたことから戦功抜群と海軍上層部から評価され、大尉に特進していた。

 とは言え、本人にしてみれば含羞に満ちた話だった。


「2隻を沈めたと言っても、1隻は応援に来た駆逐艦との共同撃沈だからな」

 阿部大尉は、空を飛び、自らも周囲に目をある程度は配りつつ、謙遜の独り言を呟いていた。

「宣伝のためと割り切りましょう。実際、航空機と水上艦との連携で、ソ連潜水艦の脅威が格段に低下しつつあるのは事実ですから」

 今や腹心の部下になった竹中兵曹が、阿部大尉に声を掛けた。

 勿論、竹中兵曹自身も、気を緩めてはいない。

 声を掛けつつも、水上警戒の見張りの目は配り続けている。


「後一歩か」

「その一歩が遠い気がしますがね」

「まあなあ」

 阿部大尉と竹中兵曹は、そうやり取りをした。


 ソ連潜水艦の脅威は、明らかに低下しつつあり、後一歩でソ連潜水艦にトドメを刺せる。

 後、ソ連のウラジオストク軍港を占領できれば、ソ連潜水艦の根拠地は完全に叩き潰せるのだ。

 しかし、その後一歩が遠い。

「日米満韓で共闘して頑張るしかないのか」

 阿部大尉はそう嘆き、竹中兵曹は肯いた。

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