第2章ー5
ガーランド少佐は、指揮下にある戦闘機の数を確認した。
緊急出撃を行わざるを得なかったこともあり、60機に満たない数しか出撃できていないようだ。
「味方は敵機の約4分の1といったところだな」
ガーランド少佐は、半ばぼやいた。
更に問題があった。
首都防空に当たる戦闘機部隊が装備していたBf109の多くが、MG17しか搭載していない型式だったことだった。
本来なら、MGFFを搭載している型式がもう少し首都防空にあたる予定だった。
しかし、対仏等への西方侵攻に際し、独空軍は英仏日米等の航空隊による激烈な抵抗を受けていた。
そのため、ゲーリング国家元帥の主張によれば、悠々と圧倒的な航空優勢、制空権を確保できる筈の独空軍は思わぬ苦戦を強いられる羽目になり、少しでも航空優勢を確保するために火力が優越するMGFFを搭載しているBf109は、西方戦役に向けられる事態が引き起こされていたのである。
こういったことから、この時に戦闘機の火力不足に首都防空に当たる独空軍戦闘機部隊は悩む羽目になったのである。
(もっとも口の悪い軍事評論家に言わせれば、仮にMGFFを搭載しているBf109を主力としていても、結果に変わりは無かった、という声があるのも事実ではある。
この頃のMGFFの弾道性能の悪さは、どうにも否定できないレベルであり、撃ってもまともに当たらなかったという当時の独戦闘機部隊の搭乗員の回想が多々あるのも事実なのだ。
それを言い出したら、エリコン20ミリ機銃を搭載しているこの頃の零式艦上戦闘機も同様だろう、という反論がなされるのも、また事実ではあるのだが。)
それはともかくとして、戦闘機数においてほぼ半分という有様で、独空軍戦闘機部隊が日本海軍航空隊の戦闘機部隊に挑んだのは、間違いない事実だった。
「上昇しつつ、一撃離脱に掛けろ。敵戦闘機部隊の追従を振り切って、敵爆撃機部隊へ攻撃しろ」
自分でも無理を言っていることは分かっている。
2対1の劣勢にほぼありながら、敵戦闘機部隊の群れを突破して、爆撃機部隊への攻撃を仕掛ける等、無理難題もいいところだ。
しかし、やらねば首都ベルリンに爆弾の雨が降り注ぐのだ。
ガーランド少佐は、そう考えて、指示を下した。
「予想通りに上がってきたな」
一方の源田実少佐は、独空軍戦闘機部隊を見て、そう呟いた。
「だが、思ったより少ない。これなら勝てるだろう」
実際、源田少佐率いる日本海軍航空隊の戦闘機部隊は、これまで同数なら優位に戦うことが出来ていた。
更に言うなら、この時に欧州に赴いていた日本海軍航空隊は、掛け値なしに戦闘機部隊のみならず爆撃機部隊、攻撃機部隊も世界で一、二を争う手練れが揃っていた。
それに対し、この時の独空軍戦闘機部隊は(あくまでも相対的にだが)練度が低かった。
だから、この後に起きたことはほぼ必然だった。
「掛かれ」
源田少佐の命令一下、日本海軍航空隊の戦闘機部隊は、独空軍戦闘機部隊に襲い掛かった。
重爆撃機部隊と戦闘機部隊との高度差が2000メートルあるのだ。
上昇してくる敵戦闘機部隊に対し、積極的に味方が襲い掛かることが許される状況だった。
「最初の指示を忘れるな。我々の第一目標は、敵重爆撃機部隊だ」
ガーランド少佐は、そう対抗して指示を下した。
こちらはこちらで、その指示に従った行動をとろうとする。
最終的にガーランド少佐は、部下の報告を取りまとめた結果、上層部に対して、敵機合計70機を撃墜することに成功、敵機の約3割を撃ち落としたと報告する。
一方、源田少佐は、部下の報告を取りまとめ、敵機約30機を撃墜したと報告することになるのである。
だが、共に誤っていたことが分かる。
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