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第1章ー30

 この頃、日本海兵隊の上層部が、そんな深刻な話し合いをしていることを、父の土方歳一大佐なら知っていただろうが、土方勇少尉にしてみれば、知る由もない話だった。

 土方少尉の所属する第1海兵師団は、ノルウェー救援作戦にも参加したことから、損耗が激しい状況だったので、共に損耗している第2海兵師団と共にアルデンヌ地方から引き揚げ、パリ近郊の駐屯地への帰還が認められていた。

 当然、同じ師団に所属している義弟の岸総司中尉も共に、パリ近郊の駐屯地に下がっている。


「何だか申し訳ない気がしますね」

「まあ、交代で休養することになったのだから、気に病む必要はない。何れは他の海兵師団も下がってきて、代わりに自分達がアルデンヌ地方に向かうことになるさ。それに休むのも仕事だ。そう思わないと、息が切れてしまうぞ」

 土方少尉と岸中尉は、そんな義兄弟でのやり取りを駐屯地でしていた。


 表向きは駐屯地で休養しているとはいえ、消耗した兵器等の補充を受け取り、これまでに得られた新たな戦訓を学び直し、場合によっては、自分達の得た戦訓等を他の部隊に伝えねばならない。

 だから、休養と言っても完全なものとは程遠いのだが、最前線から離れているのも事実ではある。

 それを考えると、何だか土方少尉にしてみれば、申し訳ない気がしてくるのだ。

 しかし、戦歴を積んだ岸中尉にしてみれば、休まないと身が持たないと割り切っている。

 そして、土方少尉の義弟とはいえ、実際には年上だし、戦歴も岸中尉の方が長い。

 だから、土方少尉に岸中尉は、そう教え諭していた。


 そこに思わぬ来訪者が現れた。


「ご無事だったようで、本当に良かったです」

「「アラン・ダヴー大尉」」

 土方少尉と岸中尉は、異口同音にいきなり現れたダヴー大尉に驚き、慌てて敬礼した。

 ダヴー大尉は答礼した。


「岸中尉の言われる通りですよ。土方少尉。休める時に、きっちり休まないと身が持ちません。あなたの祖父もそう言われていましたよ」

「祖父がですか」

 ダヴー大尉にそう言われ、土方少尉は日本にいる祖父、土方勇志伯爵に思わず想いを馳せた。


「ええ。スペインの大地でね。更に言えば、身体と共に精神も休めろ、とも。色々と戦場では精神を痛めるだろう、それも休んで癒さねばいけないともね」

「確かに言われる通りですね」

 ダヴー大尉は、そう言葉をつなぎ、岸中尉も口を挟んだ。


 確かにそうだ、と土方少尉は想った。

 部下や同僚に戦死傷者が出ている、悼むのは当然だが、それを引きずり過ぎる訳にもいかない。

 それにしても、年齢の関係から、二人の兄に自分は諭されているようだ。

 あながち全く間違ってはいないのが皮肉な話だ。

 二人が自分の義弟であることを、ふと土方少尉は思い起こした。


「とは言え、ここでも完全に休めるかどうか」

 ダヴー大尉は、思わせぶりなことを言って、更に続けた。

「前線は膠着状態になりましたが、独空軍による嫌がらせ的な仏本土の都市等への爆撃が行われるようになり出したのですよ。この駐屯地も狙われるかもしれません」

「敵の後方に対する空からの攻撃ですか」

「ええ。それこそ前回の世界大戦の頃から規模こそ違え、行われてきた作戦ではあります」

「確かに、ツェッペリン飛行船やゴータ爆撃機による英本土空襲等が、前回の世界大戦の時に行われましたね」

 土方少尉とダヴー大尉は、そうやり取りをし、その横で岸中尉は深刻な顔になった。


「やれる限りのことをやりますが、中々困難です。それでは、これで。今日は第1海兵師団司令部に届け物があってきたのですが、ついでにお二人に会えればいいと思ってきました。会えてお話が出来て良かったです」

 そう言ってダヴー大尉は二人の下を去って行った。

第1章の終わりです。

次から第2章ーこの頃の空の戦い(仮)になります。

そのため、日本海兵隊は題名に反して暫く出ない話になります。


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