第1章ー29
「それ以外の方法も講じるか」
米陸軍のパットン将軍も考えを巡らせた。
「ノルウェーという前進基地も確保できている。これによって、バルト海も、最早、英仏米日等の航空隊にしてみれば、攻撃可能な海域になっているのだ。言うまでもなく、ベルリンへの空襲も可能だ。実際に損耗が激しくなると見込まれるので、継続的に行う訳には行かず、後、一度のみの試みには現在ではなるだろうが、零式艦上戦闘機を英米等の空軍の重爆撃機部隊の護衛につけての独本土への空襲も可能なのだ。独本土への空襲を反復することにより独の継戦能力に打撃を与えるのだ」
英空軍の将帥が、言葉を継いだ。
「実際、独空軍により散発的ではあるが、仏本土各地の都市に対する爆撃も行われつつあるのだ。それに対する報復という名分もある」
仏空軍の将帥も、英空軍に口添えした。
「更に言うなら、独の味方であるソ連空軍による日本本土への都市爆撃が繰り返されている。それと同じことを我々もやっているだけだ、という主張も独本土への空襲においてはできる。もっとも、ソ連自身は、日本本土にソ連空軍が都市爆撃を加えた事実は無く、日本の自作自演だといっているがな」
日本遣欧総軍における航空部隊の長といえる塚原二四三空軍中将(もっとも、塚原中将の下には、現在の所は直属の実動部隊は無く、航空参謀的な立場にたっていた。)も、英仏空軍に味方した。
「確かに一理ある考えだな」
パットン将軍もそれなりに頭が切れる。
各国の空軍の将帥の主張に同意するような口ぶりになった。
「時間が経てば経つほど、国力の差が出てくる。そして、日米の戦争遂行能力に、独ソ中の軍事力では、大打撃を与えることは不可能だ。だから、長期戦こそ我々が望むところなのだ。しかし、その一方で余りにも戦争が長期化しては、国民が戦争に倦んでしまう。それこそ前回の世界大戦の時のように」
石原莞爾中将が、更に発言して、一息入れた。
「いつ頃が、独への反攻を開始する時期だと考えるのだ」
石原中将の発言を受けて、パットン将軍は、他の将帥に問いかけた。
「早くて今年の9月初めだろうな。実際には9月半ばになるかもしれん。ともかく、米国本土から米陸軍に来てもらう必要があるし、日本海兵隊も再編制する必要がある」
北白川宮大将が言った。
言外にそろそろ米陸軍の拡張も本格化している以上、欧州に米陸軍を向けろ、と言っている。
北白川宮大将は、口には出さなかったが、英仏等の欧州各国の陸軍の将帥の間に漂っている、いわゆる空気を読んでいた。
実際のところは、マッカーサー将軍の横槍、我が儘なのだが、我が日本の要請が大きいせいで、米陸軍の多くが極東方面につぎ込まれてしまい、欧州方面への来援が遅れているという不満が、各国の将帥の間で漂いつつあるようだ。
その不満を少しでも薄めねばならない、日本も米陸軍を欧州に派遣することに賛成であると示さねば。
この会議の後で、北白川宮大将は、日本本国の堀悌吉海相や米内光政首相、吉田茂外相等に、自分の意見も付けて、この会議における欧州各国の将帥の意見を伝えるつもりだった。
米内内閣にも、米陸軍を欧州に向けて欲しいといってもらい、米国にもそのように実際に行動に移してもらわねば、各国の協調にヒビが入りかねない。
そう、パットン将軍の意見行動もあり、欧州に航空隊しか実質的に派遣していない米陸軍に対して、欧州諸国の陸軍の間で、きちんと兵力を欧州にも送って欲しい、と反感が広がりつつあるのだ。
日本は各国の協調を深めていかねばならない。
何しろ日本だけではソ連のみと戦うことさえ困難なのに、更に加えて独中が敵なのだ。
北白川宮大将は、溜息が出る想いだった。
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