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第1章ー28

 サン・ヴィット救援を日本海兵隊が果たしたことが、独軍の西方戦役における第一段階の事実上の終わりとなった。


 サン・ヴィット救援を果たした時点で、日本海兵隊はアルデンヌ地方におけるこれまでの戦闘でそれなりに消耗してしまい、休養や再編制を行わないと、最早、攻撃の矛先を務めるのは無理になっていた。

 更に6月一杯を掛けて、日本海兵隊はサン・ヴィットの完全解放を果たし、更に予備として拘置されていたポーランド軍師団等の増援を受け取った仏第9軍等と協力して、アルデンヌ地方における仏軍の失地の大部分を奪還することに成功したが、それが英仏米日等の側の現時点における精一杯だった。


 その一方で、A軍集団による大攻勢が失敗に終わったと判断した独軍は、A軍集団がかなり損耗したこともあり、B軍集団を攻勢の主軸とすることにして、じりじりとオランダ、ベルギー軍を押し込み、英仏軍にも苦戦を強いようとしたが、現在の独軍の状況は、ボクシングで言えば、左利きの選手の左腕の骨が折れてしまったようなものである。

 こちらも攻勢防御的な態勢に移行し、占領地の完全な確保の上での進撃を図ろうとせざるを得なかった。


 7月初め、戦況がほぼ安定したことに鑑み、パリにおいて、英仏米日に加え、ポーランド、ベルギー、オランダ等の各国の将軍級の司令官が集まった会議が開かれていた。

 議題は言うまでもなく、今後の戦略方針についてである。

 多分、一月余りは膠着した戦況が続くだろう、お互いに激闘に参加した将兵を休養させ、補充兵を前線に送り込み、再編制を行う必要がある。

 そのように会議の参加者の多くが考えていた。


「一応、我々が勝ちを収められたようだ。更なる攻撃を策すべきだ」

 会議が始まってすぐに、米陸軍のパットン将軍が獅子吼したが、会議の参加者の多くの反応は冷ややかなものだった。

 本来なら、すぐに米軍に味方する日本軍とポーランド軍の将帥も、パットン将軍をたしなめるような対応を取った。


(日本海兵隊は、そもそもの成り立ち等から積極攻勢を好んだ。

(仏陸軍のアラン・ダヴー大尉に言わせれば、日本海兵隊は、かつて仏陸軍が高唱した「エラン・ヴィタール」の正当な後継者だった。)

 ポーランド軍にしても、本来からすれば速やかに独ソの占領下から祖国を解放したかった。

 こういった事情から、日本軍とポーランド軍は、本来的には攻勢主義に傾いていたのである。)


「お気持ちは分かりますが、日本海兵隊の補充、更に日本海軍航空隊の補充再編制には秋まで掛かります。それまで攻勢を取ることに日本軍としては反対します」

 北白川宮成久王大将は、上品な言葉遣いでパットン将軍の主張に反駁した。

「我がポーランド軍も、本来的には祖国ポーランドを速やかに解放するために攻勢を取りたい。しかし、日本軍が再編制され、米軍の増援が駆けつける秋までは攻勢に反対します」

「サン・ヴィット防衛の英雄」と早速、英仏米の新聞等が騒ぎ出したレヴィンスキー将軍も、北白川宮大将に同調した。

 英仏軍の将帥も、これらの言葉に無言で肯く。

 独軍の大攻勢をやっとの思いで跳ね返せた、という想いが、英仏軍にこのような態度を取らせていた。


 ちなみに、ベルギー、オランダは国土の大部分を蹂躙されており、両国軍の将帥の本音としては速やかに国土全部の解放を求めたかったが、英仏軍の消極的な態度から取りあえず防御態勢で妥協していた。


「秋まで、ずっと待てというのか」

 パットン将軍は怒りを秘めた口調で話し、会議の参加者全員を睨み据えた。

「そういうことではない。別の手段も講じて独を弱らせてから攻勢に秋に転じようというのだ」

 会議に出席していた英空軍の将帥が発言した。

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