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第1章ー25

 実際、この半伝説となった戦闘に参加した土方勇少尉にしてみれば、初陣からそんなに戦場経験をまだまだ積んでいなかったこともあり、実際の戦闘の際には、目の前の敵に対処するので精一杯だったといっても過言ではない有様があったのだ。

 そのため、後世に書かれたこの時を描いた歴史小説については、夫は辛口な批評をするのが大半だった、と妻の千恵子は覚えている。


 土方少尉は、部下達の手前、弱音を(表面上は)決して吐かなかったが、内心では義弟である岸総司中尉らの協力を心から願いつつ戦った。

 何故なら。


「正面では、105ミリ軽榴弾砲部隊が展開しているか。おそらく歩兵部隊も支援しているな」

 土方少尉は考えを巡らせた。

 後方の師団司令部等からの情報によれば、敵装甲師団が前面に展開しつつある筈だ。

 しかし、前方に展開している歩兵部隊は、敵歩兵部隊との戦闘は報告するものの、敵戦車の情報を未だに自分達に伝えてはこない。

 このことから考えられる推論は。


「敵戦車部隊は、どこかに隠れていて自分達への奇襲を策している」

 土方少尉は、そのように考えて上層部に意見具申を行い、上層部からも警戒するように指示が出ていた。

 とは言え。


「戦車乗りの視界は狭いからな」

 土方少尉は、溜息が出る想いがしていた。

 勿論、本来から言えば、ハッチから身を乗り出す等して、周囲への警戒を自ら行うべきではある。

 しかし、中国戦線等からそのような行為は狙撃兵の絶好の的になるので、頻繁に行うものではない、という戦訓がもたらされている。

 こういった事情から、最前線では歩兵(海兵)と戦車が協調しつつ、一緒に前進するという事態が起こっていたのである。


 そうは言っても、危険だから前進しないという選択肢は、自分達には無い。

 サン・ヴィットでは、レヴィンスキー将軍が直卒しているフランス軍が、救援を一日千秋の想いで待ち望んでいるのだ。

 危険を覚悟して、自分達は前進するしかないのだ。

「周囲の歩兵の目を信じて、前進するぞ」

 土方少尉は決断した。


 義兄の土方少尉の信頼に無言の内に、岸中尉も応えようとしていた。

 この有様を、間近に共に見ることが出来たら、お互いの祖父、土方勇志伯爵も岸三郎提督も、揃って戦場に赴いた自分達の若い頃を見るようだ、と苦笑いを交わして言いあったに違いなかった。

「五感の全て、特に目と耳を働かせろ」

 岸中尉は、部下にそう命じつつ、土方少尉の傍を前進していた。


 独軍の榴弾砲陣地を攻めようと、日本海兵隊が準備を整え出した頃だった。

「西方から戦車らしき音が聞こえます」

 岸中尉の部下の兵が、いきなり大声を上げ、歴戦の下士官の一人も

「警戒しろ。俺にも聞こえる」

 と肯定の声を挙げた。

 岸中尉は、速やかに警戒の準備を整え、戦車隊にも警報を発した。


「来たな。おそらく榴弾砲陣地を攻めだした後、即面攻撃を敵戦車隊は行うつもりだったな」

 その警報を受けた土方少尉は、そう判断した。

 これまでの独軍戦車との戦訓(英仏軍等からの情報も含む)から、敵が新型戦車を大量投入していない限り、我が軍の戦車の方が質的優位にあるのは間違いない。


 とは言え、敵も徐々に慣れつつある。

 日本の戦車とは正面から戦わず、独の戦車は側面攻撃に徹し、更に日本戦車の履帯や転輪等を狙い撃ちにすることで、我々の足を止めようとしている。

 幾ら優秀な戦車であっても、足が止まってしまったら、その戦車の威力は半減以下になる。

 そこに、独歩兵が日本戦車に対戦車手榴弾の投擲を試みたり、中には独戦車自らが体当たりを試みたりする例が起こっている。

 さすがは独軍と土方少尉は内心では唸っていたが、唸ってばかりはいられない。

 何しろ自分や部下の命が掛かった戦いだ。

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