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プロローグー3

 その頃、夫や弟達が仏でそんなことをしているとは、直接は知る由もない日本にいる土方千恵子は、子どもを産んだばかりにもかかわらず、ついつい義祖父の土方勇志伯爵の仕事の手伝いを多くしようとし、時として大姑や姑に止められる日々を送っていた。

 初めて産んだ自分の子どもの和子に対して、千恵子が愛情を注いでいない訳でない。

 しかし、それこそ初曾孫を可愛がる余り、乳母まで新しく土方伯爵に雇われては。


「千恵子さん。私の仕事ですから、そう気になさらず、ゆっくり休むか、他の事をするかしてください」

「そうですね」

 乳母にしばしばそう言われては、千恵子は和子の世話を控えざるを得ない。

 その為、元々はどちらかと言えば活発な性格の千恵子にしてみれば、時間を持て余す事態になっていた。


 それ故、義祖父の仕事の手伝いをして、千恵子は暇な時間を潰すという何とも本末転倒の事態が起こっていたのである。

(千恵子は、決して口には出せないことではあるが、土方伯爵が自分の仕事を手伝わせるために、積極的に乳母を雇ったのでは、と疑っていた。)

 それはさておき。


「欧州方面では、デンマーク本土が独に占領されたが、ノルウェーが我々の側に立って参戦したな。これで、独ソの潜水艦部隊の猛威も少しずつ収まるだろう。次の焦点は、独仏戦だろうな」

「そうですね」

 義理の祖父と孫娘は、そのような会話を交わしていた。


 千恵子が行っている義祖父、土方伯爵の仕事の手伝いというのは、義祖父の下に入ってくる情報の整理分析の手伝いである。

 退役したとはいえ、海兵隊の重鎮であり、貴族院議員でもある土方伯爵の下には、おびただしい国内外の情報が集まってくる。

 情報の整理分析のために秘書を雇えば、と土方伯爵に勧める人がいない訳ではないが、隠居老人には千恵子が手伝ってくれるだけで充分だ、という土方伯爵のある意味、我が儘からこのような事態になっていた。


「どのように独仏戦は推移するでしょうか」

「独仏戦は、ある意味、第二次世界大戦における関ヶ原の戦いになるだろうな。これに独が勝てば、欧州大陸において独ソの覇権がしばらくは確定する。一方、仏が勝てば、欧州大陸において独が来年には崩壊するという事態が引き起こされかねない」

 千恵子の問いかけに、土方伯爵はそのように分析して見せた。

 その考えは、千恵子にも納得できるものだった。

 だが、その一方で意地悪な質問を返したくもなった。


「独仏戦が、地上の戦いだけで終わるでしょうか。空の戦いも無視できない、と想うのですが」

「民間人とは思えぬ考え方をするな」

 千恵子の質問に、土方伯爵は苦笑いをしながら返した。

 実際、ノルウェーが英仏米日側に立った最新情勢からすれば、英本土に重爆撃機部隊を置き、ノルウェーに戦闘機部隊を配置することで、戦闘機の護衛を付けた重爆撃機部隊の独本土、特にベルリンに対する爆撃が可能になっている。


「実際、ソ連も日本本土に対する夜間空襲を五月雨式に過ぎないとはいえ、再開するようになっているではありませんか。我々、日米英仏側が独本土に対する空襲を行う、という選択肢も当然にある、と考えるのは民間人であっても自明の理です」

 千恵子は、土方伯爵にそう言葉を返した。


 とは言え、これは千恵子の様々な知識、思考に基づくものなのは否定できない話だった。

 千恵子は、伊達に東京女子高等師範学校に進学、卒業している訳ではない。

 土方伯爵の見立てでは、もしも、千恵子が男として生まれていたら、海軍兵学校か、陸軍士官学校に入学できたのではないか、という知識思考の持ち主だった。


 だからこそ、ある意味、千恵子を鍛える甲斐がある、という判断を土方伯爵はしているのだった。

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