第1章ー21
実際、レヴィンスキー将軍は巧みにサン・ヴィットを死守していた。
砲戦車を適切な位置に配置し、歩兵の支援に当たらせることで、サン・ヴィットを攻略しようと迫る独軍の接近を巧みに阻む。
仏軍の砲戦車は、固定砲塔という弱点があるが、榴弾も撃てる75ミリ砲を主砲として装備している。
主砲の火力的には、零式戦車すら上回るのだ。
攻撃の先鋒を務めるのには、固定砲塔ということで、かなり不満が出てくる代物だが、拠点防衛等の守備に使うのには、砲戦車はもってこいの代物だった。
レヴィンスキー将軍は、退却途上の仏軍の部隊から砲戦車をかき集め、サン・ヴィット防衛のために100両余りを投入していた。
こうなると10個師団余りで、独軍が猛攻を加えても、そう容易に落ちる拠点ではなくなる。
また、米陸軍航空隊を主力とする航空部隊は、サン・ヴィット守備隊に対して物資を投下したり、独軍に対して銃爆撃を加えたり、といった行動により、サン・ヴィット守備隊を支援していた。
実際には、独軍の手に落ちた物資もかなりあったらしいが、レヴィンスキー将軍の回想によると、この空中からの物資補給が無ければ、とてもサン・ヴィットを守り抜くことはできなかったという。
更にバストーニュ方面から、日本海兵隊を主力とする救援部隊が、サン・ヴィットを救援するために急行していた。
零式戦車の部隊を先頭に立て、強引に急進撃を図る日本海兵隊に対しては、本来は独第16軍が対処する筈だが、じりじりと押されており、ミューズ河を独軍の一部は既に渡河を完了していたとはいえ、後方が切断される危険にさらされつつあった。
このため、独A軍集団司令官であるルントシュテット将軍は、ミューズ河を渡河した部隊の一部さえ、後方の脅威となりつつある日本海兵隊への対処のために向けることを決断せざるを得ない状況に陥りつつあった。
とは言え、それはそれで正しい判断ではあった。
ロンメル将軍等からの報告を受けたルントシュテット将軍は、日本海兵師団の戦力は、独装甲師団の戦力に機動力、火力共に匹敵すると考えた。
更にミューズ河を渡河した部隊は、独B軍集団の部隊と共同して、ベルギーの英仏軍を攻撃しつつあり、裏返せば、皮肉なことに独A軍集団の先鋒部隊は、独B軍集団と合流することがほぼ可能になっていた。
「この際、アルデンヌ方面からの補給路を確立するために、残存する独A軍集団の装甲師団全6個師団を、日本海兵隊に向ける」
ルントシュテット将軍は、そう決断した。
そして、内心では想いを巡らせた。
とは言え、これまで攻撃の先鋒を担い、自らの血を流してきた各装甲師団の戦力は、ほぼ2割減といったところで、全滅一歩手前に近い。
それに対して、日本海兵隊6個師団は、新手の部隊と言ってよく、我が第7装甲師団の相手をして勝利を収めており、意気軒昂となっている筈だ。
日本海兵隊のサン・ヴィット救援作戦を阻止することは不可能だろう。
それでも。
「我が独はリエージュ、ナミュールを確保した。攻勢の第一段階は成功した、という宣伝はできる」
ルントシュテット将軍は、そう判断していた。
大攻勢は失敗してノルウェー戦に続く敗北で独の将来は昏い、と国内外に思わせる訳には行かない。
そうなっては、独ソ寄りの中立を維持している東欧諸国、イタリア等が英仏米日にすり寄るだろう。
そして、最悪の場合、イタリア等が英仏米日側に立って参戦することさえあり得る。
これ以上、独の敵を増やす訳には行かないのだ。
更にその後だが。
「第一次世界大戦の時のように、パリを目指して徐々にいくしかないだろうな。仏との短期決戦は夢と化したか」
ルントシュテット将軍はそう判断していた。
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