第1章ー14
だが、これには誤解が含まれていた。
日本海兵隊の士官の多くが独軍の最新の戦車の方が零式戦車より質的優位にあると判断していたのである。
具体的には独軍の最新の戦車は88ミリ砲を主砲とし、装甲も最も厚い部分は傾斜100ミリ以上はある、更にエンジンにしても独の技術をもってすれば600馬力以上は軽く発揮できる、と考えられていた。
これはスペイン内戦において投入されていた独製兵器を分析した結果、日本海兵隊内において想定されていたものだった。
(スペイン内戦において、いわゆる88ミリ高射砲やDB601エンジンを搭載したBf109が、独からスペイン共和派に売却されていた為に、このような誤解が生じた。
日本と同様に独も戦車用エンジンについては、航空機用エンジンを転用、乃至同等の物を採用していると日本海兵隊は考えたからである。
更に装甲については、88ミリ高射砲が主砲である以上、射距離500メートル程度からなら抗堪できる装甲が装備されている筈と日本海兵隊は考えていた。
なお、英仏軍からは独の戦車はそこまで強力ではない、という情報提供もあったが、西方戦役に関する意見対立等もあり、日本海兵隊の士官の多くは、その情報を信用していなかった。)
そのため、ダグインしてまで、土方勇少尉らは、独軍戦車の迎撃準備を整えたのだが。
最初の会敵の際に、土方少尉は拍子抜けする羽目になった。
「距離500メートルを切ったな」
土方少尉は、自ら先頭の敵戦車との距離を測っていた。
土方少尉は首を傾げながら考えた。
独軍は、我々を海兵隊だとして舐め切っているのだろうか。
どう見ても我々の戦車より弱そうな戦車が先頭に立っている。
「馬鹿にするのも程々にしろ」
部下を鼓舞するためもあり、土方少尉はわざと声を荒げた。
「弾種、徹甲、初弾必中を果たせ」
「分かりました」
砲手が土方少尉の命令を受けて射撃する。
初弾が命中した敵先頭戦車の砲塔は、消し飛んだようにさえ、土方少尉には見えた。
「ちょっと待てや。あいつ、どんな主砲を搭載してるねん」
ロンメル将軍は、指揮を執るために最前線に赴いていたのだが、日本海兵隊の戦車の最初の一撃により、味方の38t戦車が破壊されるのを見て驚愕し、思わず故郷の訛り言葉が出ていた。
「どう見ても75ミリ砲は搭載していますな」
「そんな阿呆な」
副官の言葉に、更にロンメル将軍はツッコミを入れた。
双眼鏡で確認する限り、自分がいかに忘れようとしても決して忘れられない「桜に錨」という日本海軍、海兵隊の紋章があの戦車には入っている。
つまり、あれは日本海軍、海兵隊の戦車なのは間違いない。
そして。
「37ミリ砲までしか積んでいない我が軍の戦車では、あの戦車の破壊は不可能のようですな」
副官の言葉に、ロンメル将軍は無言で肯くしかない。
味方の戦車も日本の戦車に対して、懸命に応戦を始めている。
日本の戦車に対して、最低でも全部で10発以上は味方の戦車は命中させているのに、平然と日本の戦車はどれも動いていて、味方の戦車を一撃で屠っていく。
味方の戦車では、日本の戦車に決して勝てない。
「速やかに、あの陣地から敵戦車を引き釣り出せ。あいつは、88ミリ高射砲で破壊するしかない」
ロンメル将軍は、そのように指揮下にある第7装甲師団の各部隊に命令を下した。
しかし。
「敵の誘いに引っかかるな。海兵(歩兵)と連携して、守備に徹しろ」
中隊長を介し、戦車大隊長の岡村徳長中佐の命令が下ってくる。
土方少尉も、その命令が妥当だと考えた。
後続部隊が駆けつけ、質量共に優位に立ってから攻撃に転ずればよい。
他の戦車大隊の者も同様に考えた。
そのため、ロンメル将軍の罠は発動しなかった。
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