第1章ー10
空挺部隊による奇襲を行えない以上、独軍は次のような作戦を展開することとした。
以下、北から南に掛けて順に説明する(なお、各軍の規模は、作戦中でさえ予備の投入や損耗による交代、更に別の軍への師団の移動等により、一定ではないため省略している。)
1,B軍集団麾下の第18軍が、オランダ侵攻作戦を実施する。
(なお、洪水線により進軍が阻害されると予測されるが、英仏軍の目を引きつける役目であり構わない。)
2、B軍集団麾下の第6軍がベルギー方面に侵攻する。
(これによって、英仏軍に独軍主力が正面からベルギーに侵攻してきたと欺瞞する。)
3、A軍集団麾下の第4軍、第12軍、第16軍はアルデンヌ地方に侵攻する。
その内の第4軍と第12軍は共闘して北西に向かい、アントワープを目指して、ベルギーに展開している英仏軍主力の側面を攻撃し、崩壊させる。
第16軍は第4軍と第12軍の側面を援護する。
4、C軍集団の第1軍と第7軍は、独仏国境のジークフリート線防衛に基本的に徹する。
5、なお攻勢の主力となる装甲師団、自動車化歩兵師団は、その多くをA軍集団に集中する。
独軍の侵攻作戦計画は、ほぼ日米、ポーランド軍が予測している作戦計画に近いものがあった。
だが、その目標が異なっていた。
日米、ポーランド軍側は、独軍が大胆不敵な作戦を展開し、西方への大突進を図ると考えていた。
しかし、独軍は、そこまでの作戦を採用せず、既にベルギー領内に英仏軍が展開している以上、まず、それをアルデンヌから北方への進撃により粉砕することで、兵力比を自軍に有利にし、その上で南進するというある意味で手堅い作戦を執ったのである。
とは言え、独軍の攻勢が差し迫っていたことは間違いなく、英仏米日等の連合軍は、その対応準備に追われることになった。
日本の遣欧総軍司令部も、その準備に追われることとなり、土方歳一大佐は、司令部の幕僚の一人として、独軍の攻勢が始まった場合に、前線へ部隊を動かす準備、計画を立てていた。
「どうだ。どの程度、掛かると踏んでいる」
北白川宮大将の問いかけに、土方大佐は迷いながら答えた。
「独軍の攻勢が始まったことが判明してから、24時間以内の移動が可能ですが、問題はどのような攻勢を独軍が取るかですね」
「例えば」
「時間差での攻勢を独軍が展開する場合です。オランダ、ベルギーへの攻勢を先行させ、それへの対応を我々が図ろうとした時に、アルデンヌからの側面攻撃を図るとか」
北白川宮大将の問いかけに、土方大佐は答えた。
「確かにその危険は考慮するに値するな」
傍にいた石原莞爾中将も、口を挟んだ。
「英仏軍にしてみれば、それ見たことか、と我々に言って、予備をオランダ、ベルギーへつぎ込め、と言い出すだろう。その瞬間に、独軍の主攻勢がアルデンヌ方面から展開されてはたまったものではない」
「ええ」
石原中将の言葉に、土方大佐は同意した。
「パットン将軍に言わせれば、だから、攻勢を取るべきだ、そうすれば戦場の主導権を我々が握れる、と言うのだろうが、英仏軍が守勢に凝り固まっている以上、どうにもならないな」
北白川宮大将は、そう半ば呟き、石原中将や土方大佐らは同意せざるを得なかった。
「取りあえず、航空偵察や通信傍受を強化し、英仏米軍等との連携も強化して、独軍の攻勢を早期に把握して撃破することに努めるしかありませんね」
土方大佐は、北白川宮大将らに意見具申をし、北白川宮大将らも同意した。
土方大佐は、想いを巡らせた。
息子達は独軍の攻勢が始まったら、最前線へと赴くことになる。
本当に息子達は、生きて祖国に還れるだろうか。
父もかつては、同じように自分を心配したのだろうか。
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