第1章ー8
「航空隊だけでも、前線に投入して下されば幸いです。それで大なる戦果を挙げ、米軍はここにいる、というのを顕示されてはいかがですか。そう、昔の我々のように」
北白川宮大将は、パットン将軍を巧みに慰めた。
その言葉を聞いて、パットン将軍は第一次世界大戦の際のことを思い起こし、前を向いた。
1918年に行われた独軍の最終攻勢、カイザーシュラハトに際して、日本海兵隊は全て再編制中の為に前線に向かえなかった。
だが、遣欧総軍司令官にして元帥海軍大将たる林忠崇閣下が前線にいるのに、日本海軍が前線に赴かない訳には行かないと、半ば独断で日本海軍航空隊は前線に赴いた。
そして、独陸軍航空隊のエースとして敵味方から畏敬されていたリヒトホーフェン兄弟を戦死させる、という大戦果を日本海軍航空隊は挙げたのだ。
「良いことを言われますな。その通りです。米陸軍航空隊、ここにあり、というのをお示ししましょう」
パットン将軍は、北白川宮大将の肩を叩いて喜んだ。
このように日米、ポーランドは、着々とアルデンヌ地方からの独軍の攻勢を警戒した準備を行っていた。
更に言うなら、独軍の攻勢を逆用して積極的な反撃を試みるつもりだったのである。
では、独軍はどのような計画を立てていたのか?
第二次世界大戦終結後に米英仏日等の連合軍による調査の結果、次のような計画を立てていたというのが通説となっている。
独軍の主攻勢はアルデンヌ地方から行われる。
その一方で、助攻勢がオランダ、ベルギー方面で行われる。
なお、独仏の直接の国境線においては守勢に独軍は徹する。
ここまでは、日米、ポーランド軍首脳の予測と一致していた。
しかし。
独軍のアルデンヌ地方からの主攻勢の最終目標は、アントワープとする。
独軍のアルデンヌ地方から進撃する部隊は北進して、オランダ、ベルギー方面に展開している英仏蘭白軍の側面を突くことで、正面からの助攻勢を行う部隊と連携し、英仏蘭白軍主力を崩壊させる。
それが独軍の基本計画だったのである。
日米、ポーランド軍は、アルデンヌ地方を抜けた独軍主力は西方へ急進すると予測していたが、実際には独軍主力は北を目指す(細かく言えば北西と言うべきだろう)計画が立てられていたのだ。
(なお、英仏(及び蘭白)軍首脳部は、日米、ポーランド軍の忠告にも関わらず、オランダ南部からベルギーを独軍主力が目指すという意見のままで独軍の侵攻を迎え撃つことになる。)
これは、独軍がノルウェー戦で消耗していたこと、及び独軍が攻勢を取らずに守勢を執っていては、英仏米日の国力の前に独はジリ貧になる、いや崩壊するしかない、という現実を踏まえた上での作戦だった。
実際問題として、当時の独軍の戦力では、日米本土を直接攻撃することは不可能だった。
勿論、友邦たるソ連が日本本土に対しては攻撃を加えてはいる。
しかし、ソ連の戦力では、日本の国力に目に見える打撃を与えるというのは不可能であり、日本の国民に精神的な打撃を与えるのが精一杯というものだった。
この程度では、日米本土から生み出される軍事力によって、最終的には独ソ中は敗北必至である。
それではどうすべきか。
独軍、政府が考え付いたのが、仏を征服し、伊西葡等を軍事的恫喝により屈服させ、欧州大陸を独ソの軍靴の下に置くことで、長期不敗態勢を確立し、日米と講和に至るという作戦だった。
そのためには、仏本土を独軍が征服することが必要不可欠である。
そして、独軍は仏本土侵攻作戦を立案し、その第一段階として、アルデンヌ地方を経由してアントワープを目指す大攻勢計画を立てたのだが。
これでさえ、実際には独の軍事力からすれば、限界に近い作戦だったのである。
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