第1章ー7
レヴィンスキー将軍は、独軍の攻勢計画について、以下のように1940年6月初め当時は予測していた。
「独軍の主攻勢は、アルデンヌ地方を通り、西方をひたすら目指したうえで、カレー、ディエップ方面を目標とすると想定される。それによって、独軍が大西洋岸に到達すれば、ベルギー方面に展開している英仏軍主力は、仏本土からの補給が途絶してしまい無力化する。その後、この主力軍を包囲殲滅し、仏の首都パリを独軍は占領することで、仏は降伏すると独は予測しているだろう」
実際、仏の首都パリが陥落すれば仏は降伏するだろう、と当時の多くの(英仏の)軍人でさえ考えていた、という現実がある。
それから考えると、レヴィンスキー将軍の考えは極めて妥当なものと言えた。
だが、一点だけ間違えていたのだ。
しかし、レヴィンスキー将軍の予想さえ、英仏軍の大部分の将帥には予想しえなかった、いう現実がある。
英仏軍の将帥の多くが、地形を考慮する余り、オランダ南部からベルギーを経由しての独軍の主攻勢が行われるという予測をしていたのである。
(なお、独軍でさえ、ヒトラーの強硬な主張が無ければ、オランダ南部からベルギーを経由しての主攻勢を展開する予定だった。)
そのことから考えると、レヴィンスキー将軍の予測が、結果的とはいえ、最終的に誤ったのはやむを得なかった話ではないだろうか。
更に言うなら、レヴィンスキー将軍の予測は、日米両軍司令部の予測とも一致していた。
(細かく言うなら、日本軍の石原莞爾提督、米軍のパットン将軍両人の予測というべきだろう。両軍共に司令部内の各人同士では、予測について細かい部分の対立があった。)
そして、ノルウェー戦の反省(ノルウェー戦では、独軍の暗号無電を解読することにより、英仏米日軍は優位に戦うことができた)に鑑み、ノルウェー戦以降の独軍は、無電の使用を極力控えるようになっており、このために独軍の行動予測が、英仏米日軍には困難になっていた。
(註、独軍にしても、自軍の暗号無電が解読されていると完全に予測できてはいなかったが、ノルウェー戦の経験において、自軍の暗号無電が解読されているのでは、と疑惑を持ったことから、暗号無電の使用を控えるようになっていた。)
こういったことから、独軍の攻勢について、レヴィンスキー将軍や日米両軍司令部は完全に予測することには失敗することになるのである。
だが、それでもそれなりに有用な対策を講じることが、日米両軍にはできた。
「ポーランド軍約30個師団が、パリ近郊に残るか」
「我が日本海兵隊6個師団もですがね」
パットン将軍と北白川宮大将は、それなりに上機嫌での会話を行っていた。
「何があっても、パリは護らねばなりませんから、そのためにこれらの部隊を予備にすることにしました」
「贅沢極まりない話ですな。我が米軍が編制中の機甲師団より有力な日本海兵師団が予備扱いとは」
「仏政府が弱腰になるより遥かにマシです。予備なら、危なくなったところに緊急投入できます」
「確かにおっしゃる通りです」
第一次世界大戦末期当時、肩を並べて戦ったことのある二人は、改めて意見を一致させていた。
「我が米軍に兵があれば、日本とポーランド軍への協力に兵を惜しまないのですが。生憎と陸軍航空隊しかいない有様です。兵があれば前線で戦いたい」
パットン将軍は、無念そうに言った。
実際、この当時に欧州にいる米軍は、陸軍航空隊のみと言っても間違いではなかった。
ノルウェー戦終結に伴い、米海軍の空母部隊は米本国との航空機輸送任務に再投入されていたのだ。
(ちなみに、日本海軍も同様に空母部隊に本国帰還、航空機輸送任務への投入を行っている。)
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