エピローグー2
そんなある意味では物騒極まりない会話が、アーヘン大聖堂で行われていること等、同じ日にパリで行われていた連合国軍の首脳会議には全く無縁な話だった。
パリでは、各国軍の首脳が集まり、来年1月以降の作戦計画について活発な討議が行われていた。
「ライン河という独の防衛線は完全に崩壊した。来年になり次第、ライン河を我が連合軍の主力は渡河していき、まずはルール工業地帯を制圧し、更にエルベ河を渡河して、独の首都ベルリンを目指すべきであり、来年中には独を無条件降伏に追い込もう」
仏軍総司令官のアンリ・ジロー将軍は吠えた。
「それだけでは、この第二次世界大戦は終わらない。更にソ連を制圧し、共産中国を打倒したうえで、蒋介石によって中国に統一政権を樹立させねば、この第二次世界大戦は終わらない」
日本の遣欧総軍参謀長である石原莞爾中将は、ジロー将軍の言葉に打てば響くかのように発言し、その言葉に多くの連合軍の首脳、将軍の面々は無言で肯いた。
「間違ってはいないが、この第二次世界大戦終結までに、どれだけの犠牲が出るだろうか」
米国のアイゼンハワー将軍は、二人の発言を聞いて思わず、そのように想いを巡らさざるを得なかった。
「独のみならず、ソ連、更に中国本土の大部分を抑えている共産中国政権と戦うのだ。億という単位で戦死又は戦争に関連した様々な死者が、民間人も含めて大量に出るのではないか」
アイゼンハワー将軍は、更に想いを巡らせた。
「色々と想われることがあるようですな」
会議の休息時に、アイゼンハワー将軍の想いを察したのか、誰かが声を掛けてきた。
英語だが、日本語訛りがある、とアイゼンハワー将軍が、声を掛けてきた人を見ると、日本海兵隊の大将の襟章等を身に着けている人物だった。
その襟章が目に入った瞬間に思わず、アイゼンハワー将軍は敬礼した。
その人物は、尊敬に値する人物だからだ。
「反射的に敬礼されることまではないでしょうに」
「いえ。日本の皇族であり、数々の武勲に輝かれている以上、敬礼せざるを得ません」
アイゼンハワー将軍の敬礼に対し、その人物は答礼し、二人は言葉を交わした。
日本の新聞等の報道においては、日本武尊の生まれ変わりとまで、その人物は称えられているという。
そして、その人物は、第一次世界大戦時のガリポリ上陸作戦以来、更に1918年の最終攻勢、満州事変等々で実戦の洗礼を受けて、実際に勝ちを収めている。
その人物、北白川宮成久王大将は、穏やかな笑みを浮かべて、アイゼンハワー将軍と向かい合っていた。
「ライン河という大防衛線を崩すことに成功しましたが、これはまだまだ世界大戦終結への第一歩です。ベルリンが陥落しても、独はともかくソ連は降伏しないでしょうし、共産中国も同様でしょう。後、何年、この世界大戦は続くことやら」
北白川宮大将は、思わず述懐していた。
アイゼンハワー将軍も、その言葉に同意せざるを得なかった。
「米国が音頭を取り、日英仏等が協同して大威力の新兵器を開発するという話があるのを聞かれましたか」
北白川宮大将は、意味ありげな言葉を発して、アイゼンハワー将軍は息を呑んで沈黙した。
本当は肯定したい、だが、自分の立場では沈黙せざるを得ない、そうアイゼンハワー将軍は考えた。
「聞いたとも、聞いていないとも言えないのは分かっています。ですが、その話を聞いて思いました。どれだけの犠牲を出せば、この世界大戦は終わるのだろうと」
北白川宮大将の言葉は、悟りを開いた高僧の言葉のようだった。
「本当に犠牲者を少なくしたいものです。同意していただけますかな」
北白川宮大将の言葉に、アイゼンハワー将軍は無言で肯くことしかできなかった。
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