第5章ー23
日本海兵隊の進撃路は1本ではなかった。
渋滞による進撃の遅滞を避けるために、複数の道路を活用していた。
これは独軍の遅滞戦闘を困難にした。
1本の道路の進撃を阻止しても、他の道路から回り込まれては遅滞戦闘の意味が無い。
更に、数十キロという縦深にわたる大規模な砲爆撃が加えられた後の攻撃である。
独軍の戦線に対する砲爆撃が開始されてから10時間も経たない内に、独軍の戦線は崩壊しており、日本海兵隊は戦車部隊を先頭に突進を開始していた。
「もうすぐ夜間になる。本来から言えば、突進すべきではないが、突進するのだろうな」
ルーデンドルフ鉄橋をひたすら目指して突進する零式重戦車部隊の一員である土方勇中尉は、徐々に日が落ちる中で、そう呟いた。
戦車というのは視界が余り効かない。
夜間進撃は、本来から言えば避けるのが本来といえば本来だった。
それに、今回は進撃速度を重視する余り、歩兵もできる限りトラック等に乗せ、ひたすら前進させている。
一応、偵察機を飛ばすこと等により、独軍の夜襲に早期の内に気づけるように気を配ってはいるが、そうは言っても限度がある。
だが。
「攻撃開始から24時間以内にルーデンドルフ鉄橋を確保せよか」
土方中尉の下にまで、遣欧総軍司令部からそのような命令が下っているのだ。
何故に24時間以内なのか。
それは独軍によるルーデンドルフ鉄橋爆破作戦を実施させないためだった。
日本海兵隊が、ルーデンドルフ鉄橋を目指している、と独軍が判断し、反撃が間に合わないと判断して、ルーデンドルフ鉄橋爆破を決断し、実際に独軍が爆破する時間の猶予は、それだけだと遣欧総軍司令部は推測している。
そして、ルーデンドルフ鉄橋を確保できなければ、この作戦は失敗に終わる。
土方中尉は、夜間進撃のリスクを覚悟して、前進するしかなかった。
実際、遣欧総軍司令部の推測は正しかったことが、後に独軍の戦闘記録と付き合わせた結果、判明することになる。
独軍上層部は、いきなり日本海兵隊が加えた大規模な砲爆撃と、戦車部隊を先頭とする大攻勢に一時的に混乱したが、その後、速やかに混乱から立ち直って、ルーデンドルフ鉄橋を日本海兵隊が目指していることをその日の昼過ぎには理解していた。
そして、慌ててルーデンドルフ鉄橋を防衛する部隊を集めようとしたが、本来なら日本海兵隊の攻撃を阻止するライン河西岸の部隊の多くが、移動の準備を整えておらず、かといって東岸の部隊はライン川を渡河させねばならず、という事態が起きており、とてもルーデンドルフ鉄橋を守り抜くことはできない、とその日の深夜には判断せざるを得なかった。
そこで、慌ててルーデンドルフ鉄橋の爆破を決めたのだが。
「ルーデンドルフ鉄橋を爆破するに足りる爆薬が準備されていないだと」
「はっ。まさかこれ程、急に日本海兵隊が攻撃してくるとは予想していなかったので」
「取りあえず、集められるだけの爆薬で爆破を試みろ」
だが、爆薬も足りない、時間も足りない中で、そんな急な爆破作業が成功する訳が無かった。
「まだ、橋が爆破されていない。急いで独軍を掃討して、橋を確保しろ」
11月16日の明け方が近くなる中、ルーデンドルフ鉄橋がまだ爆破されていないのを視認した土方中尉は、そう絶叫し、共についてきた歩兵と工兵までも急き立てた。
工兵隊の支援の下、橋の爆破作業を阻止し、強引にライン河を歩兵と共に渡河する。
独軍もこれまでに設置出来ていた爆薬を強引に爆発させたが、爆薬量が足りず橋は掛かったままだった。
混沌たる戦闘が半日程続いた後、11月16日の夕暮れが迫る頃に土方中尉は報告した。
「ルーデンドルフ鉄橋は掛かっています。確保成功です」
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