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第5章ー17

 岸総司大尉は、第3海兵師団司令部で、独軍の第一線陣地を突破したという知らせを各所から受け、師団長である南雲忠一中将にその朗報を伝えていた。

 南雲中将は、その朗報を受けて少し考えた後、これ以上の前進をしないようにあらためて指示を出した。

 岸大尉もその指示に同意せざるを得なかった。

 我々の前進はここまでに止めねば。


 だが、南雲中将としては、これで単に終わりにしては、師団司令部内に不満を残すと考えたようで、岸大尉をターゲットとして口頭試問を掛けてきた。

 岸大尉は背中に汗をかきつつ、南雲中将の口頭試問に答える羽目になった。


「岸大尉、これ以上は日本海兵隊は前進せず、それ以外の軍に前進を任せた理由が分かるか」

「はっ。日本海兵隊には他に重要な任務があるからです」

「具体的に言ってみろ」

「ライン河の渡河点を確保するという任務が、我々にはあります」

「その通りだ。良く分かっているな」

「ありがとうございます」

 南雲中将と岸大尉はそうやり取りをした。


 その言葉を聞いた幕僚の面々は、内心はともかくとして二人のやり取りに同意した。

 新人の大尉参謀でさえ、真の任務が分かっているかのように話すのに、自分は分からないかのように話すことは面子から言っても話すことはできない。

 岸大尉は、南雲中将から求められた任務を完全に果たしていた。


 そんなやり取りが、日本海兵隊内ではあったが、アラン・ダヴー大尉ら、この作戦に協力するフランス軍にしてみれば、半分気にする必要のないことだった。

 ダヴー大尉らの任務は、ともかくアーヘンへの突進だった。


「独軍が巧みに第二線陣地を築いており、砲爆撃でも崩せていません」

 最前線での戦闘を担っていた同僚の歩兵中隊から、そのような連絡がダヴー大尉の下へ飛び込んできた。

 ダヴー大尉は、自ら最前線に赴いて、独軍の防御陣地を実見した。

「確かに巧みに築いたものだ」

 ダヴー大尉自身も、同僚の歩兵中隊が苦戦する理由が分かるような陣地を、独軍は築いている。


 しかし、ダヴー大尉の目からすれば、それはあくまでも相対的なもので、自分達には手段があった。

「砲戦車小隊を呼び寄せろ。大隊長や連隊長には、私からも上申する」

 そう指示を下したダヴー大尉にしてみれば、自分の視界内にある独軍の陣地は攻略可能だった。


 実際、ダヴー大尉率いる歩兵中隊等を支援するために来援した砲戦車小隊4両は、直接火力支援をダヴー大尉の歩兵中隊に速やかに提供した。

 砲戦車である以上、速やかに砲塔を旋回して独軍の陣地を突破するような任務には向いていない。

 だが、歩兵を直協する任務に使うだけなら、固定砲塔の砲戦車でも十二分に役立つのだ。


 そして、独軍の戦車部隊に対する対戦車任務にも、砲戦車は充分に役立つ代物だった。

 連合軍の進撃を妨げようと、独軍の戦車部隊が逆襲を試みるが、仏軍の砲戦車はシュナイダー社製の75ミリ野砲を転用した主砲を搭載しており、射距離500メートルで85ミリの垂直装甲を貫通したという試験結果がある代物だった。

 正直に言って、1940年10月当時、独軍の戦車で正面からこの75ミリ砲の直撃に耐えられるだけの装甲を持った戦車は無い、といってもあながち間違いではなかった。


 こういった事情から、少々苦戦したとダヴー大尉自身が判断せざるを得なかったが、独軍の第二線陣地を崩すことにダヴー大尉のフランス軍中隊は成功した。

 ルイ・モニエール少尉は、ダヴー大尉の指揮ぶりに素直に驚嘆して言った。

「名に恥じない士官ぶりですな」

「色々と背負うものがあるからな。モニエール少尉も名に恥じないように努めろ」

「これは耳の痛いことを」

 ダヴー大尉の言葉に、モニエール少尉は肩をすくめた。

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