第5章ー16
1940年10月16日の朝、ナポレオン6世陛下ことルイ・モニエール少尉は初陣を飾ることになった。
そして、モニエール少尉にしてみれば、頭では分かっていたが、初陣、実戦は本当に異なるものだった。
連合軍の航空隊により、敵軍に対して大量の爆撃が加えられると共に、嵐のような砲撃が浴びせられる。
それにより、敵、独軍の防衛線が崩れ去ったところに、自分達が進撃していく予定になっている。
「こんなに大量の砲爆撃を加えた後に、我々の進撃が行われるのですね」
モニエール少尉は思わず呟いた。
その言葉を聞いたアラン・ダヴー大尉は、モニエール少尉に意味ありげに微笑みながら言った。
「これだけの砲爆撃がいつも加えられるものではないがな」
ダヴー大尉は、かつてのスペイン内戦の際の自身の戦闘を思い起こさざるを得なかった。
あの時、そんなに砲爆撃が無い中でも、敵も味方も攻撃せざるを得ないことが稀でなかった。
これだけ潤沢な砲爆撃という支援が得られる中で、初陣を飾れるモニエール少尉ではなかった、ナポレオン6世陛下は幸せ者だ。
もっとも、自分の初陣もいい勝負だ。
あの時は、日本の海兵隊員が先陣をきって戦っており、自分達、日系義勇兵の面々は基本的に後方からそれを眺めるだけだったのだから。
「サムライが本当に先陣を切るようですね」
モニエール少尉の呟きが、ダヴー大尉の耳に入り、ダヴー大尉はあらためて双眼鏡で視界内を見回した。
砲爆撃が、一旦、終了したころ合いを見計らって、日本の海兵隊、サムライが先陣を切って独軍の陣地への突撃を開始していくようだ。
零式重戦車を言わば盾として、海兵隊は前進している。
「独軍にしてみれば堪ったものでは無いな」
モニエール少尉らに対する講義も兼ねて、ダヴー大尉は海兵隊の攻撃を論評することにした。
「零式重戦車に対しては、独軍の37ミリ対戦車砲等ではほとんど役に立たない。独軍の陣地は蹂躙攻撃にさらされることになるだろう」
ダヴー大尉の言葉に、フリアン軍曹を始めとする実戦経験のある部下達は無言で肯くだけだったが、モニエール少尉ら実戦経験の無い部下達は驚嘆するような表情を浮かべた。
「だが、無理はしないだろう。そうは言っても、零式重戦車は無敵ではない。零式重戦車の履帯等の駆動部分に損害を独軍が与えられないことは無いのだ。独軍の最も堅い第一線陣地を突破したら、我々も攻撃に参加することになる。皆、腹を括っておけ」
ダヴー大尉は、部下の中隊員にあらためて指示を兼ねて言った。
部下達は相次いで肯いた。
実際、日本海兵隊の攻撃は、ダヴー大尉の論評通りといっても過言ではなかった。
第一線陣地を突破した段階で、日本海兵隊の戦車、零式重戦車は停止してしまい、それ以上の前進を行おうとはしない有様だった。
「これが精一杯だな」
土方勇中尉は、半ば苦笑いをしてそう呟き、それ以上の前進を止めていた。
日本の遣欧総軍司令部からは、独軍の第一線陣地を突破を果たした後、それ以上の前進は不要という指示が出ている。
こういった場合、士官ならその指示の裏読みをするのは当然のことで、裏読みをする限り、これ以上の前進をしてはならない、と遣欧総軍司令部から指示が半ば下っていると読み込むべきだった。
「全く。もっと前進したいものだが、裏事情がある以上は、動けないな」
土方中尉はそう呟かざるを得なかった。
父に聞けば詳しい事情が分かるのだろうが、聞かなくとも自分達のレベルまで、これから後の作戦のためにこれ以上の前進をすべきではない、という噂が流れてきている。
もう少し機密保持を図るべきでは、と自分としては思わなくもないが、どうしようもない話か、と土方中尉は考えた。
土方中尉がやったのは、史実だとパンツァーカイル戦術の一例ということになるのですが、この世界ではそんな戦術は今のところは存在しないので、こういう描写にしました。
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