第5章ー15
石原莞爾中将の一言に、会議に参加している面々の多くの顔が綻んだが、土方歳一大佐は内心では反対せざるを得なかった。
確かに、サムライ、日本海兵隊の実力を会議に参加している面々の多くが高く買っていること自体は喜ぶべきことだった。
しかし、実際に日本海兵隊の実力で可能なのか、と言われると疑問を土方大佐は覚えざるを得なかった。
だが、石原中将には成算があるようで、言葉を更に継いでいた。
「アーヘンへの攻撃に、我々、日本海兵隊も集中しているかのように装いましょう。そのために最初の攻撃の先鋒に零式重戦車を積極的に投入してはいかがでしょうか」
石原中将の一言に、土方大佐は目を剥いた。
零式重戦車は、確かに日本の誇る世界最強級の戦車である。
だが、零式重戦車は、所詮は戦車であることに変わりはなく、積極的に攻撃に投入すると、それなりに損耗が発生するのは避けられない戦車でもあった。
だから、零式重戦車を攻撃の先鋒に投入してしまうと、それなりに故障し、損耗が生じてしまう。
土方大佐は、零式重戦車の開発において責任者を務めたこともあり、そのことをよく知っている。
だからこそ、目を剥く羽目になったのである。
「さすがにそれはどうでしょうか。最初の攻撃に零式重戦車を積極的に投入しては損耗がそれなりに生じてしまい、その後の零式重戦車の使用に差しさわりが出ると思料します」
土方大佐は、それとなく石原中将を止めに掛かった。
「最初の攻撃だけだ。その後は投入しない」
石原中将は、土方大佐が止めに掛かることを予期していたのか、更に言葉を継いだ。
「最初の攻撃で、零式重戦車は、それなりに損耗したように装い、後方に下げてしまうのだ。そして、アーヘン攻防戦に、独軍の目が注がれた後、我々は別方向に奇襲を掛けるのだ」
「技巧的過ぎる作戦のような気がします。もう少し簡明な作戦を図るべきでは」
土方大佐は、更に石原中将を諫めた。
いつの間にか、石原中将と土方大佐のやり取りに、米軍やポーランド軍の将官達も注目し、沈黙するようになっていた。
石原中将は、満州事変やスペイン内戦の際に名を馳せているが、土方大佐自身の知名度も中々だった。
清のラストエンペラー溥儀の北京からの脱出の際に、実際に溥儀を北京から天津まで直接護衛して脱出を成功させたのは、土方大佐だったのだ。
それに父が土方勇志伯爵、祖父が土方歳三提督という事もあり、そういった点でも知名度が高かった。
「あくまでも最初の戦線突破に零式重戦車を使うだけだ。それ以上は使うつもりはない」
石原中将は、少し意固地なまでに主張しだした。
ここまでか、土方大佐は矛を収めることにした。
石原中将が一度、意地を張ってしまうとどうにもならない、と父も言っている。
「分かりました。その代り、その約束を守ってください」
土方大佐は、とうとうそう言う羽目になった。
その後、日本軍、米軍、ポーランド軍は、アーヘンに対する攻撃とその後に行うライン川渡河作戦についての詳細を突き詰めて検討することになった。
そして、英仏軍の一部も加わる以上、ある程度、詳細が決まった時点で英仏軍等にも作戦の詳細を明かして協力を求めることになった。
そして、英仏軍から投入される部隊の中にはフランス外人部隊の面々の姿もあった。
当然のことながら、その中にはアラン・ダヴー大尉とその部下、ルイ・モニエール少尉ことルイ・ナポレオン・ボナパルト、ナポレオン6世の姿もあった。
「いよいよ実戦ですか」
ルイ・モニエール少尉は、初の実戦を前に興奮を隠しきれなかった。
「程々に緊張することだ」
ダヴー大尉は歴戦の士官として、ルイ・モニエール少尉を生暖かく見守りつつ、そう忠告した。
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