第5章ー11
「何としても米軍の重爆撃機部隊を守れ。それから余裕があれば、独空軍の戦闘機部隊を積極的に攻撃しろ」
源田実中佐は、自身も独空軍の戦闘機Bf109に積極的に挑みかかりながら、そう部下に指示を下した。
「いいな。我々の第一目標は、重爆撃機部隊だ。戦闘機に構い過ぎるな」
一方のガーランド中佐は、部下達にそう指示を下したが、自分でも困難だ、と腹を括った。
何しろ数において、戦闘機だけでも我々が劣勢なのだ。
更に戦闘機の質で言えば。
「格闘戦に巻き込まれるな。何とか一撃離脱を試みろ」
ガーランド中佐は、これまでに蓄積されてきた戦訓から、零式艦上戦闘機と格闘戦を行うのは、地獄への一直線の道になりかねない、と判断していて、部下達にもそれを徹底していたつもりだった。
だが、実戦経験が相対的に浅い部下達は、日本海軍航空隊員の操る零式艦上戦闘機の誘いの前に格闘戦に引きずりこまれてしまう者が多発している。
日本海軍航空隊にとって、複数機で連携戦闘を挑むのは、第一次世界大戦以来のセオリーである。
更に言うなら、最近は機上無線の性能が向上しており、その点でも日本海軍航空隊の連携戦闘の技能は向上しているといえた。
日本海軍航空隊の戦闘機乗りの誘いの隙に乗ってしまい、格闘戦を挑んだどころに、囮機の相方機の射撃を受けて、被弾する独空軍の戦闘機が続出する。
数が相対的に優勢ならば、まだしも数的劣勢の中で、独空軍の戦闘機部隊は戦っている。
独空軍は苦戦を強いられた。
「一機撃墜」
日本語での撃墜報告が、相次いで源田中佐の耳に飛び込む。
源田中佐自身も、Bf109を1機確実に撃墜するという戦果を挙げた。
こういった日独の戦闘機部隊が死闘を演じている間に、米陸軍航空隊の重爆撃機部隊は、相次いで投弾を果たしていたようで、今やハンブルク上空から、米陸軍航空隊の重爆撃機部隊は姿を消しつつある。
また、独空軍の戦闘機部隊も、燃料等が不足気味になりつつあるようで、自分の基地に戻ろうとしつつあるようだった。
こういった状況を見た源田中佐は追い打ちを掛けることにした。
「燃料、弾薬に余裕があれば、更なる追撃を戦闘機部隊は加えよ」
ガーランド中佐にしてみれば、悪夢を見る想いがした。
30分余りに及ぶ死闘の末、独空軍の戦闘機部隊の燃料は底をつきつつあった。
日本海軍航空隊の戦闘機部隊も同様と考えていたが、日本海軍航空隊の戦闘機は、まだまだ燃料等があるようで、執拗に追撃を掛けてくる。
今回は出撃させるつもりは無かった予備の部隊に対して緊急発進準備を下令しかけたところで、ようやく日本海軍航空隊の戦闘機部隊は撤退していったが、独空軍の戦闘機部隊はこの第一次空襲で、予想以上の損耗を余儀なくされた。
10月1日の第一次の昼間空襲は終わった。
日米連合の約600機の戦爆連合の大編隊は、零式艦上戦闘機を10機余り、重爆撃機を10機余り失うという損害(なお、再出撃不能な損害を被った機体数は不明)を被った。
つまり、1回の空襲で4パーセント近い損害を被ったのである。
一方、独空軍の戦闘機部隊は、約150機の内約20機が撃墜され、ほぼ同数が再出撃不能な損害を被るという大損害だった。
爆撃自体のハンブルクに与えた損害だが、ハンブルクにある独海軍の基地設備を狙う筈が、ハンブルク市街に誤って多くが投弾されてしまった。
そのために、市街地では大規模な火災が発生し、大量の消防隊員が市街地の消火のために投入されるという事態が起こったのである。
ようやく、火災が小規模化して、鎮火の目途が立ちつつあるところに、英空軍の夜間空襲がハンブルクに襲い掛かった。
これにより、新たな大規模火災が発生した。
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