第5章ー10
そして、日本海軍航空隊と米陸軍航空隊の重爆撃機部隊が、最初に目標としたのは、ハンブルクだった。
ハンブルクには独海軍の潜水艦基地がおかれており、今や水上艦のほとんどを失い、潜水艦が戦力の主力となった独海軍にしてみれば最重要の拠点の一つといって良かった。
これは逆に見れば、英仏米日等からしてみれば何としても叩きたい独海軍の拠点だったからである。
ここに10月1日の昼、日本海軍戦闘機部隊約200機、米陸軍航空隊の重爆撃機約400機からなる第一陣の空襲が行われることになった。
更に追い打ちを掛けるために、10月1日から2日の夜に掛けて英空軍の重爆撃機部隊約200機が第二陣となる夜間空襲を加え、更に10月2日の昼、ポーランド空軍戦闘機部隊約200機の護衛の下、米陸軍航空隊の重爆撃機約400機からなる第三陣の昼間空襲を加えることになった。
「しかし、日本が先というのは、少しどうかという気がするな」
10月1日の昼間、日本海軍戦闘機部隊の長、源田実中佐は、愛機の零式艦上戦闘機に乗り組みつつも、思わずそう呟きながらハンブルクへと迫っていた。
こういった空襲の場合、どちらがリスクが高いか、というと後の方がリスクが高い公算が高い。
先の空襲の結果を踏まえ、再度の空襲を防ごうと戦闘機部隊の再配置等が行われるからだ。
そういったことから、相対的に零式艦上戦闘機に慣れていないポーランド空軍の部隊を、源田中佐としては先にハンブルクに送り込みたかったのだが、ポーランド空軍としては少しでも独空軍と戦いたいと後を志願、日本海軍航空隊とポーランド空軍だけではらちが明かず、日本の遣欧総軍司令部とポーランド国防省まで少し巻き込みかけた末に、日本が先、ポーランドが後、ということで落着したのだった。
実際問題として、独空軍はある程度は、こういった爆撃を既に想定していた。
そのためにハンブルク空襲に対し、独空軍は果敢な迎撃を試みることになった。
源田中佐が、ハンブルク上空で見たのは、三々五々と駆けつけてきた独空軍の戦闘機部隊だった。
その中には、源田中佐は知る由もなかったが、かつてベルリン上空で相まみえたガーランド中佐もいた。
「来たな。日本軍め」
ガーランド中佐は、腹を括っていた。
ノルウェー方面に日本海軍航空隊が展開しているという情報を完全に秘匿することはできなかった。
独軍情報部は、日本海軍航空隊がノルウェー方面に展開しているという情報を得て、再度、ノルウェー方面から独本土に対する空襲が大規模に行われる公算が大であるとして、独空軍に対して警報を発した。
それに対応して、独空軍の戦闘機部隊も展開していたのである。
だが、それにも限度があった。
「(独空軍の戦闘機の)数が足りないな」
源田中佐とガーランド中佐は、お互いにそう呟く羽目になった。
第二次世界大戦開戦以来の損耗は、独空軍の戦闘機部隊に馬鹿にならない損害を与えていた。
この日、日米連合の約600機からなる大空襲部隊を迎撃するのに、独空軍が準備できたのは約150機が精一杯だった。
ガーランド中佐としては、最善を尽くしたつもりだった。
独軍の西方攻勢はすでに事実上とん挫している。
そして、西方戦線の航空優勢を独空軍が失えば、いよいよ独本土への英仏米日等の連合軍への進撃が始まりかねない。
こういった状況から、西方戦線に展開している独空軍の部隊から精鋭を引き抜くことはできず、ガーランド中佐なりに腕利きを集めたつもりではあったが、西方戦線にいる戦闘機搭乗員と比較した場合、腕がやや落ちるのはやむを得ない話だった。
日独の戦闘機部隊がぶつかって早々、質量双方の差がお互いに分かるようになった。
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