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第1章ー5

「さすが、サムライと元独軍、良い所を突いてくる」

 パットン米第1軍司令官は、そのように日本とポーランドからの進言を評価した。

「アルデンヌ地方からの独軍の主攻撃か。中々おもしろい考えだ」

 パットンは独り言を言った。


 その言葉を聞いた幕僚の一人が口を挟んだ。

「アルデンヌ地方の地形は、戦車等の通行が困難です。独軍が戦車を先頭に主攻撃を行うのには、余り向いていないのでは?」

「馬鹿モノ。それが狙いだ。ハンニバルが、ナポレオンがアルプスを越えたのを忘れたのか」

 パットンは、すかさず軽い罵声をその幕僚に浴びせた。

「敵が通らない、と思っているところを通る。奇襲戦法の基本だ」

 パットンは更に言葉を継いだ後で、想いを巡らせた。


 かつて、自分こそハンニバルの生まれ変わりと信じていた。

 だが、違っていたようだ。

 ハンニバルの生まれ変わりは、林忠崇元帥閣下だったようだ。

 あれ程の武人、軍人に比肩しうるのは、ハンニバルだけだろう。

 生まれた頃には影も形も無かった航空機等まで戦場で存分に活用されては、たまったものではないな。

 その教えを直接に受けたサムライ、日本海兵隊の司令官にして、自分も尊敬するに足りる北白川宮殿下からの主張でもある。

 傾聴するに足る主張を述べて来るではないか。

 畜生、自分に兵があれば。


「しかし、英仏軍は素直に日本とポーランドの意見を聞かないだろうな」

「ええ、英仏軍は、地形から言ってもオランダ南部からベルギーを通り、パリを独軍の主力は目指すという主張に凝り固まっているようです」

 パットンの問いかけに、別の幕僚が答えた。

「確かに普通に考えれば、その考えの方が正しいからな」

 パットンは考えを巡らせた。


 考えを巡らせるうちに、パットンは悪い考えを思い付いた。

「英仏に対して、申し入れをしろ」

 パットンは幕僚に命じた。

「どんな申し入れですか」

 幕僚は問い返した。


「金というか、兵器等の大量供給を米国はしてくれるからな」

 仏のガムラン将軍は、渋い顔をしていた。

 アラン・ダヴー大尉は、幕僚の一人として、傍に控えていたが、どうにも我慢できずに口を挟んだ。

「何か問題が起きたのでしょうか?」

「アルデンヌ地方の防衛について、ポーランド軍のレヴィンスキー将軍に一任してはどうか、という申し入れが米国からあったのだ」

 ガムラン将軍は、苦虫を嚙み潰したような顔のままで言った。

「確かに厄介な申し入れですね」

 ダヴー大尉も、厄介な申し入れだというのには同感だった。


 ダヴー大尉の本音としては、英仏軍上層部の主張するベルギーからの独軍の侵攻よりも、アルデンヌ地方からの独軍の侵攻の可能性が高い、と自分の情勢判断を主張したかった。

 名も知らぬ自らの父が生まれた国、日本の戦史を調べると、奇襲により勝敗が決した戦いが目に付く。

 その戦史研究からすれば、アルデンヌ地方からの独軍の侵攻というのは充分あり得る話だった。

 とは言え、ダヴー大尉も仏陸軍の一員である。

 仏陸軍上層部に面と向かっての反対意見を、ダヴー大尉は述べ難かった。


「ポーランド軍は、日米と協調してアルデンヌ地方からの独軍侵攻の危険を警告していますからね。確かに自分の言葉に責任を持て、という観点からは妥当なものに思われますが、仏の国土防衛の一翼を外国軍の将帥に委ねるというのは、感情的に反感を覚える厄介な申し入れですな」

 ダヴー大尉が、そのように自分の考えを述べると、ガムラン将軍は無言のままで肯いた。


「しかし、感情面を抜きにすれば、妥当な申し入れでは?」

 ダヴー大尉は内心ではその申し入れの妥当性を認めていたので、ガムラン将軍に同意するように促した。

 暫く逡巡した末、ガムラン将軍はその申し入れを受け入れた。

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