つまらない話
いつもつまらない話ばかり考えては、早く世界が滅びないかなと曖昧に祈っています。
最近は上手く眠ることもできずに日の昇る前に起きるものだから、真っ暗な部屋でごそごそと虫のように歩くことになる。
キッチンで水をコップに注いで、ソファに座る。カーテンを開けて、夜明け前の街を見る。灰色にくすんだビルディングはいつ見ても大して変わり映えしないような気がして、ひとりぼっちになったような気持ちがいつも静かに垂れ落ちてくる。
水を飲むのが下手なものだから、センチメンタルな気分もすぐにほどけてしまう。顎から喉へ伝って、シャツを濡らした命の源に、私はいつもどんな気持ちで向き合えばいいのかわからなくなります。たまにそのまま泣きはらして、シャツをぐっしょりと濡らしてしまいたいと思うのです。涙は一滴も出ません。
テーブルの上に置いたノートを広げて、その日の日付を書き込む。どんな夢を見たか思い出そうとする。最後に本文を書いたのは三ヶ月以上も前のことで、それからずっと、何も書けないでいる。
日々何をする気力もなく、未来について展望を立てるでもなく、くだらない話ばかりを考えているものだから、夜に見る夢はぶくぶくと金魚のように肥え太って、起きた私の頭では、どんな風にまとめたらいいのか見当もつかなくなりました。ペンを叩き折りたくなります。可哀想だからやめます。涙が出そうになりました。
ボールペンの中に金魚を飼う作家のことが頭を過る。
縁日で掬った金魚を放す水槽がなかった彼は、仕方なくボールペンのインクの中に金魚を飼うことにする。そうこうしている間に世界は滅びて、彼は最後の小説を書くためにそのボールペンを使わなければいけなくなる。だけど愛着が湧いてしまった。金魚の命と、物語を天秤にかけて彼は。そこまで考えてつまらない話を閉じる。命と天秤にかかるものなどこの世のどこにあるというのだろう。世界は滅びたりはしない。
ぼうっとしていると時間が過ぎていく。
このまま白い壁を見つめているだけで一生が過ぎていけばいいのにと思う。壁の日焼け跡から、部屋にもう一人の住人がいることに気付いた少女の話を考える。少女とともに成長していく背丈を見つめながら、ひょっとしたらこれは男の子だったのかしら、と急に恥ずかしくなる。血痕。二度と思い出さなくなる。
「ふ、ふふ」
どうしてそんなひどいことばかりを考えるのかしら。可哀想だわ。私は決してそんな話を書いたりはしませんとも。
目を瞑って呼吸の音だけを聞いていると、自分がどこにいるのかわからなくなる。そういう心地よさがある。目を開くと思い出す。世界は滅びたりしていなくて、ちゃんとそこにありました。
出勤の準備を始めた。
電車に乗っていると、いつも通り私はハムでございますという気持ちがむくむくと湧いてくる。
昔にやったゲームを思い出しまして、ファンタジー世界の中にこの国というものが存在したら、きっと合理の病気のように描写されるのだろうといつもいつだって思います。
同じ格好をした人たちが、自分自身を荷物のように扱って、銀色の箱の中に押し込めていきました。魂の位置が、がたんごとんと水平に移動して、決められた場所で呼びつけられてすたすたと。まるで召喚魔法です。電車で召喚、田舎はサービス対象外。きっと私の実家にも来てはくれないでしょうね。
私はいつもこんなことを考えて電車に乗っているわけだけれど、はたして他の人々はどんなことを考えてこの時間を過ごしているのだろう。輝かしい未来のこと? 天井にみんなの考えていることがスライドショーみたいに表示されたら面白いのに、と思う。美大を出たサラリーマンの頭の中から世界で一番綺麗な海の絵が出てきてしまったから、みんな次の駅で降りて海まで続く反対の電車に乗るのです。そうしたら今度はそっちの電車が大混雑。水に浸からず芋洗い。
芋洗いといえば、電車の中を洗濯機にするのはどうかしら。通勤の時間を無駄だと思う人って結構多いわけなんだし、有効に使うのがいいと思うのです。きめ細かな粒子がこすれて汚れが落ちるというのだし、ぎゅうぎゅうの人間同士がこすれ合えばきっと綺麗になるのです。でもきっと、そうしたら電車に乗るときは裸になるか水着になるか、選ばなくてはいけないのでしょうね。そうしたら私は自転車で通勤するようになると思う。だって恥ずかしいんですもの。本当のことを言うと人間になんて指一本も触れたくなくて、来世はどこを触っても触られても恥ずかしくない立派なゆるキャラになりたいと考えています。
携帯をいじっている若者が見えました。そして大変失礼ながら画面の中まで見えてしまいました。楽しそうなゲームをやってらっしゃいますね。私もやってみたいと思いました。でも飽きっぽいからいつもチュートリアルで終わってしまうのです。ここで思考は二分して、人生のチュートリアルという考えと、一方で携帯電話のことについて考えるようになりました。そして前者については本当の本当につまらない話と感じたので、すぐにやめてしまいました。
携帯電話はどんどん便利になっていくのだから、いっそ人間を収容する機能をつけてほしいわと思う。電車に乗り込んだ途端にぽちっとボタンを押して電話の中に収容されていく人々。回収する車掌さん。不可思議な紛失事件。二度と戻らないあの人。そして巻き起こる携帯同士の繁殖ロマンス! はあはあ奥さんどんなSDカード使ってるの……? おぎゃあと生まれた携帯電話太郎くんは持ち前の感度で宇宙と交信びびびのびー。
どうしてこんなに立て続けにくだらない、つまらない話ばかり思いついてしまうのでしょう。悲しくなって世界の滅びを祈りました。できるだけ優しく終わるといいといつも思っていますけれど、滅びるならなんでもいいかという危険思想の芽生えだって、それはもちろんございます。へっへっへ、携帯電話の栽培事業でビッグサクセスや。そこに現れる黒服の怪しい団体! その携帯電話をこっちに渡してもらおうか。名義人のいない野良携帯はおれたちのビジネスでね。
ぷしゅーとドアが開いたので私は降りました。代わりにたくさんの人々が乗っていきました。窓にびったりとくっついたスーツが流れていくのを眺めながら、千年先の人類学者が満員電車の化石を発掘した瞬間について思いを馳せる。ううむ、こんなに小さな体積にこれほどの頭蓋骨が収まるのは信じられん。これは棺桶だったのかしらん。先生、単に移動用の箱にぎゅうぎゅうに人が詰め込まれていたのかもしれませんよ。チミね、馬鹿を言うんじゃないよ。そんな恐ろしいこと、考えただけでぞっとするね。
でもまあ、私は慣れました。
はっと意識を取り戻すと、じっと自動販売機を見つめる私がいた。
売っているのは自動車でも自転車でもラーメンでも缶ビールでもなくて、普通のジュース。ああ、そういえばさっき、お昼休みになった気がしていたんだ。
さて、それじゃあ私はきっと、何か飲み物を買うためにここに来たのだわ、と突然現る名探偵。記憶喪失になった彼は事件を追う傍ら、自身の素性を探っていく。すると段々と、自分自身も潔白の立場にはないということに感づき始めて――、
何を買おうかしらん、考えるのはいつも大体自動販売機のラインナップが入れ替わったりしていないことを確認するまでのこと。買うべきものはミルクティーのほか、この世に存在いたしません。なぜならば私が来世身を宿すゆるキャラというのは、全身からとっても美味しいミルクティーを噴き出してぶーぶー鳴くかわい~いゆる~いキャラクターと決まっているからです。
果たしてミルクティーをベースとした豚汁は豚汁たるのでしょうか。牛肉からは乳製品の味がするという感想にいったいどれほどの人が共感を示してくれるのでしょうか。考えながら一三〇円を投入してぽちっとボタンを押しました。みなさんご存知のことと思いますが、自動販売機のボタンをひとつ押すごとに宇宙にきらめく星が一つずつ消えていくのです。そんなご無体な! ゴムタイヤ! 今年は雪が降るのでしょうか。
投入口から一種偏執的なまでに加熱されたミルクティーをつかみ取り、ほわっちゃっちゃっちゃーとカンフー映画、あるいはほわっちゃっちゃっちゃねーえむと英語の教科書的な声を上げていると、突然教科書の中にキョンシーが現れます。ほわっちゃねーむ? すでに名は捨てた。俺はただのキョンシー、お前を倒す者! グローバル/拳で語る/子供たち(季語なし)。
ところで当たりつきの自動販売機があるおかげで、当たりのついていない自動販売機にコインを投入することは甚だしい機会損失を生み出しているのではありませんか?と問いかけたいような気持ちも部屋の隅に溜まっていくのです。自動販売機で右腕を買うじゃないですか。当たりが出たらもう一本! 左腕が出てくるじゃないですか。そういう日々の積み重ねによって美形の肉体ができあがるわけじゃないですか。置き場所がないじゃないですか。で、よくよく見ると首の後ろにぽっかりと空いた穴があるわけじゃないですか。自分の首の後ろを見ると鍵がついていることに気付くじゃないですか。それを移し替えてこれからは美形として生きていこうと思うじゃないですか。で、よくよく見ると親指の爪の形が気に入らなくてやっぱりやめておくわけじゃないですか。次は理想の親指の爪の形を求めてまたコインを入れるじゃないですか。ソーシャルゲームの課金の仕組みじゃないですか。
お腹がぐーぐー鳴るじゃないですか。
ご飯を食べる時間がなくなっちゃうことに気付くわけじゃないですか。
私はミルクティーを手にして食堂に行くわけじゃないですか。ぐーぐー鳴いて全身から石狩鍋を噴き出すゆるキャラのことを考えながら。ヘエーイ! そいつはほんとにゆるいのかい!? 朝ぼらけ/ゆるキャラ三段/ジョンスミス。
日の沈んだ電車の中ではどの人もこの人も死んだような顔をして携帯電話を見ていましたがすでにハロウィーンは過ぎ去っていたのでたぶんゾンビのコスプレではない。だとすると残された可能性は本物のゾンビ。あーれーいつの間にやら私は奇妙空間でパニックギャグホラーの出演者! 王子にヒロイン、取り巻きのイケメン軍団全員ナチュラルにゾンビ! 生きていることを理由に婚約破棄を持ち掛けられた私はどうなってしまうの!? 腐臭を隠すフラグメントをアイディアに商才を発揮するしかないの!? 違う、フレグランス。ううっ、一気につらくなってきたよう。人と関わりたくないよう。スペインの雨は主に平地に降るよう。
といようなことを考えている途中、窓を鏡にした私の表情は一ミリの動きもなく、どちらの笑顔が素敵かといえばそれはおそらくトンネルの壁の方に軍配が上がるような有様でございましたので、人は顔の皮一枚隔てた先で一体何を考えているやらわからないものだなあと思いました。
電車を降りて私はスーパーマーケットに寄ったのですけれど、いつもいつだってスーパーマーケットはスーパーと名乗る強気さがあって可憐だなあと思ったりもしまして、こうしたちょっと変わりつつも大体百人いたら九十九人が一生に一度は思いつくであろう考えを得意げに何度も思い浮かべる私という生き物に説教するつもりだったのか中々自動ドアが反応してくれず後ろから来た学生さんにくすくす笑われながら開けてもらいました。たとえば死後の世界で、あなたのことを見つけてくれるのが自動ドアだけだったら、本当の恋は始まりますか――? 原作売上百万部突破、日本中が涙した人気恋愛小説がこの春、映画化。
ときには鮮魚コーナーに並べられた死んだ魚の目の中に世界の終わりを探したりもいたしますけれど、大抵の場合私は水と鶏肉と白菜を買ってこの世全ての栄養を摂取したような面でレジへと並び申します。なぜかといえば、なぜでしょう。毎日同じものを食べるタイプの人生を送っております。でも時に人は風流を求め、冬至の頃になればカボチャを買って、その皮のあまりの硬さに本気の涙を流したりします。そしてぽたーん、と一滴包丁に落ちたとき、師匠の声が聞こえるのです。――見えるものばかりが、すべてではありませんよ――。そうか、そうだったんですね、師匠。ようやくわかりました……、心の在り方が! 夏場は各種インスタント味噌汁にそうめんを投入することで創作料理家を気取っていますけれど、これほど楽しい行いもありません。おそらくこれはいずれ巨大な機関によって全面的に禁止されることと思います。今のうちにたくさんチャレンジしておきましょうね。
ぴっぴっぴー、とバーコードを読み取ってもらいながら、袋いりますか、に、いりません、と答えてエコバッグを取り出します。カゴを受け取って中身をバッグに詰め替えながら考えるのは今この場で食事を始めた場合のことでした。袋いりません、なぜならこの場ですべて食っちまうからなあ! 俺の口が大きいのはお前を食べるためだぜ、赤ずきん……chu♥ こんなのもうその場でボコボコですよ。食肉コーナーに急患です!
実を言うと私は起床から時間が経過していくにつれて精神が安定するタイプの人間を名乗らせていただいているのでございますが、スーパーマーケットを出て歩道橋を渡り、川沿いの道をマンションまで歩くときはどうやったって人生の空々しさについて考えざるを得なくなってしまいますので空を見つめて枝に顔をぶつけてうえーんうわんわんわんと泣きじゃくり、あまつさえわんわんあおーんと月に吠えます。泣きじゃくっていたら神様が迎えに来てくれると思っていますね? そんなの甘いですよ。そう、今時救済と言ったら……恐竜型隕石! ティラノサウルスの化石が八百万光年の彼方から駆けつけて、子供たちに夢と希望を与えながら地球を爆散させて再び宇宙を始めるのです。どうしてせっかく終わったのにまた始まっちゃうの? どうしますか。将来みなさんの子供が夏休みの貯金箱づくりで恐竜のクローン復元を成し遂げてしまったら。
どこからかカレーライスの匂いが漂ってきました。どうして短い人生のうちでこんなにカレーライスの匂いばかりを嗅ぐ羽目になるのでしょう。大好きです。今どこかの幸せそうな家庭で夕飯はカレーよー、わーいやったー、これこそ究極の料理だ―、とはしゃぐ様子が目に浮かんでしまったそこのあなた! 本当にそうでしょうか。孤独な大学生がひとりで一週間分のカレーを作っているのではありませんか? そしてタッパーがダメになっていることに気が付いて呆然としているとは考えませんでしたか? そんな彼が隣に住むあなたの部屋の戸を叩くのです。彼は孤独な人物です。優秀で超絶美形ですがいつもどこかに寂しさを抱え、他人を信じたいのに信じられないでいます。あとあなたをものすごく好きになります。そんな彼がこう言うのです。カレー、作りすぎちゃって……。よかったらこれ、俺と一緒に解き放って、この世界をめちゃくちゃにしちゃいませんか。か、かわいい……。
部屋の扉をがちゃりと開けるといくら何でも悪ふざけみたいな寒さでした。いくら何でも悪ふざけみたいな寒さだったので、いやいや(笑)という風に呟いてみましたけれど無情! 室温変わらず! 急いで暖房をつけて、冷蔵庫の中に買ってきたものを詰め込む作業を始めました。といっても鶏肉も白菜もすぐに使ってしまうので水を入れるだけなんですけれど。一人暮らしをしている最中で虚しくなるポイントがひとつ、忍法調味料しか入ってない空の冷蔵庫の術。曲者、何奴! かきーん、槍先は凍り付いてしまいます。忍者は冷凍庫だったので。忍法変わり身冷凍術。硬くなった食パンを戻すことには自信があります。ご家庭でぜひお試しください。
お米を研いで炊飯ボタンを押しました。今夜、炊いてくれませんか……? ふん、そんなつまらん男に目を移すな。お前は余だけを見ていればよい。あ、あなたは……土鍋大帝!? それからコートをひっかけたりなんだりして、最終的に高校時代のジャージ姿になりました。ぱんぱかぱーん。あのね、夜にジャージ姿でキッチンに立っていると、なんだか自分がこの世で一番尊い存在になったような気がするんだよ……。
それから三十分、買うだけ買っておいてまだ読んでいない本にいたずらに手を付けたり、昔読んで感動した本を読み返してやっぱり天才だなあとか頷いたりしながら過ごします。三十分が経つと、お湯を沸かし始めます。ものすごくくだらないことを思いついたりもしますがあまりにもくだらない場合には頭の中で言語化することすら拒否して追い出すことにしております。
湯を沸かしている間に鶏肉と白菜を適当にカットします。沸騰したお湯に全部入れます。炊飯器がぴーぴー泣き言を言い始めるまで包丁とかを洗いながら待ちます。泣き言とは失礼な。炊飯器殿は己の仕事を立派に終えたことをお前に知らせておるんですぞ。先ほど泣き言を言い始めると表現する場面がありましたが、正しくは勝鬨を上げる、です。間違った表現で心中呟いたことをお詫びして訂正いたします。
そうしたらご飯をよそって、鍋の中身をどんぶり的なものに移し替えます。まあこれも味が一切ついていないだけで鍋みたいなものですからね。汁ごと入れてしまえばいいんですよ。そしてご飯と並べてもそもそ食べます。美味しいといえば美味しいけれど、どちらかといえば身体に優しそうという感想の方が先に立つ。実際に優しいかどうかは知らない。本当の優しさなんて、誰にわかるもんか……。
で、のっそのっそもっしゃもっしゃと食べ終えて、一瞬で洗い物まで終わります。そうしたら早速お風呂に入ります。お風呂に入っている間は、身体を洗っている時間よりも排水溝に水が流れていく様をじっと見つめている方が長いようにも思えてきます。なぜなら人は螺旋に心を惹かれるようにできていますからね。だからDNAも二重螺旋構造を取っているんですよ。お前の螺旋、すっげえキレイ……。彼が唇を寄せてきたとき、突然現る怪人スパイラル! な、なんて美しい螺旋なんだ……! ああ愛しの君よ一体どこへ! 平安より続きに続いた複世の契りを忘れたまふか! 輪廻転生型ハイパー螺旋ストーリー、怪人の住む街、好評発売中。
髪の毛を乾かしてもまだ二十一時くらいであることは確かなんですけれど、特に人生においてやりたいこともないのでそのまま私は眠ることにしているのです。これはいつも思うのですけれどゲームの二周目攻略時にステータスが埋まってるから眠ってイベントまで日付を飛ばすようなプレイングに近い生活だと思います。私の人生は一周目なので、つまりそのうちどこかで詰みます。そんな~~~~~ひどい~~~~~。
今日のうちに思いついたことのうち、まとまりそうなものだけをノートにメモ書きします。夢日記と違って本当にただのメモなので、これはかつて大学の持ち込み試験のために印刷した大量のレジュメの裏紙を使用しています。とても物持ちがいいのです。もしくは持ち込み試験がまだ続いているのかもしれません。人生終わるまでが試験ですよ。そして休みになるとそれを開いて、私は小説を書くのです。出来上がったそれを見て、つまらないと考えたり、この世で一番面白いと考えたり、この世で一番つまらないと考えたり、つまらないと考えたり、つまらないと考えたり、この世で一番つまらないと考えたり、こんなことして何になるんだと考えたり、つまらないと考えたりします。おおむねつまらないと思っているわけですけれど、でもまあとりあえずそれをすることで何となく生存のペースを作っているわけです。つまらない話ばかり考えています。人生は虚しいです。でもまあ生きてはいけるな、と最近考える次第です。早く世界には滅びてほしいですけれど。
ベッドに仰向けで横たわって、目を瞑る。マンションの前の道路を自動車が通っていく音が静かに響いてくる。自分の呼吸の音はあまり聞こえない。寝つきだけはいい方で、羊を数えても二十匹も待たずに終わってしまうものだから、羊のためにも数えないことにしている。ほら、群れにおかえり。お前の家は向こうだよ……。私の家はどこかしら? 人の魂はどこから来て、どこへと還っていくのかしら? 考えてる間も白闇に当てられたように私の意識は混濁して、夢が意識の手を引いていく。
起きたとき、世界が滅びてるといいな、と思った。
でもたぶん、明日も湿っぽい気持ちで起きて、段々ハイになって、世界の滅びを曖昧に祈りながら眠るんだろうな、と思った。
そんな、つまらない話。