楽あれば苦あり
「ねぇ、琴心」
「広瀬の娘はどうする?
退学させるか?」
有りもしない過去をベラベラと知ったかぶって喋った瑞希さん
普通ならここで退学にしたい、自分の目の前から消えて欲しい
そう思うだろう
今の私には財閥の権力を使っていとも簡単に出来る
でも私は今日、財閥の令嬢だと知った
知った瞬間に良いように財力を使うのは絶対違う
他人に自分の人生を決められる権利なんてないのだ
だから__
「__そんなこと絶対しない」
そう答えた瞬間、難しい顔をしていたお父さんたちは微笑んだ
周りを見ていると俊たちもこっちを見ながら微笑んでいる
友達に裏切られたりして私以上に最悪な思いをした人がいると思う
だけど自分の前から消えて欲しいって思ってもそんなことは出来ない
私もそうだった
司の存在自体をこの世から消し去りたいって何度も何度も思った
でもそんなことは出来ない
彼も私たちと同じように同じ時間を生きている人間なのだ
それならいっそ自分が死んでしまおうか
そう考えた時もあった
人間は遅かれ早かれいつか死ぬ運命
それは人間の最終到達点だから当たり前のこと
人間誰しもが同じ時間を与えられたわけではない
百歳になったらみんな死ぬ
そう決められているわけでもない
病で亡くなる人もいれば不慮の事故て亡くなる人もいる
その人たちは死にたくて死んでいるわけではない
まだ生きていたいのに生きられない人はいっぱいいる
私たちはまだ生きていられる
それがどんなに素晴らしいことか...
自ら命を絶つなんて生きたいのに生きられなかった人たちに対する冒涜だ
辛い思いをしたらいつかは楽しいことが舞い込んでくる
人を苦しめたらいつかは自分が苦しむ時がくる
辛い思いをしたことがある人はまた辛いことがあっても踏ん張ってゆっくり、ゆっくりと歩き続けれるだろう
楽をして生きて来た人は辛いことがあったらそこで崩れてしまうだろう
There is bitterness if it is comfortable
《楽あれば苦あり》
このことわざを胸に、これからも歩き続けていこう_