勧誘
「暗すぎでしょ…」
私は文化祭準備で八時頃まで学校で作業してたからちょっと帰る時間が遅くなった。
……ちょっとではないか。
まぁ、帰りが遅くなったとしても誰も心配なんてしないから別にいいんだけどさ。
基本的には私の親は子供の心配なんて事をする親じゃない。
だから私が何しようと関係ない。
そのおかげで私は今一人暮らしをしているんだけどね。
「おい」
「…何ですか?」
……整った顔してるなぁ
それに加えてスラッとしてるし。
モデルって言われても違和感ないんだよなー
…不良っぽいのを除けばの話なんだけどね
「お前今何時だと思ってんの?
こんな時間うろちょろしてたら不良に絡まれるぞ」
ふーん…
どーでもいいや。
「私、絡まれたとしても大丈夫です
そこらにいる他の女子と違ってやわじゃないんで。」
キャピキャピした女子と一緒にされるなんて真っ平御免だね
「へぇ…でも、相手は不良だとしてもそんな事が言えるのか?」
「当たり前じゃない。私は弱い人間が大っ嫌いなの。不良なんて外見だけじゃない。中身は大したことないわ」
前に私に突っかかって来た不良共もそうだった。
突っかかって来るわりには弱かったし
外見にみんなは騙されすぎなのよ。
人間は第一印象でだいたい判断するって言うじゃない?
脳で “嫌い” って思ったらイヤな1面しか見えてこない。つまり、その人の短所しか見れないってこと。
その逆で “好き” って思ったらイイ1面を見る。つまり、長所ってわけ。
それと一緒で “怖い” って思ったら本当に怖く思えるのよ。
ずっと一緒にいたりしてたらどんどん怖さなんてなくなっていく。
だけど、そこまで深く関わりさえしなかったら一生怖いと思って生きていく。
だから不良なんて外見だけを怖くしてたら強く見えるんじゃない?
不良=怖いって言うのが定着してるし
……ってかこの人誰?
「さっきから思ってたんですけど貴方誰?」
「俺か?俺の名前は霧野俊だ」
「へぇ……で?霧野さん…だっけ?
私になにか用?さっきから不良のことばっかり聞いてくるけど、あなたも不良でしょ?
何?喧嘩したいの?喧嘩したいのなら受けて立つけど?」
「…お前気に入った。女のわりには肝が据わってる。
俺のチームに来ないか?」
…は?
何言ってんのこいつ。ばっかじゃないの
チームって事は不良集団って事でしょ。
そんな所に行くわけないじゃん。
面倒臭いし、何しろ学校を退学になる可能性だってある。
そんな危機を犯してまで不良チームに入るなんて馬鹿がする事でしょ?
「嫌よ」
「何故だ?」
「さっきも言った通り私は弱い奴が嫌いなの。そもそも会ったばっかりの奴を勧誘するなんてどれだけ弱いチームなのよ」
「言うねぇ…俺のいるチームは弱くねぇーよ。」
「根拠は?」
「今日はもう遅い。その事についてはまた明日話そう。」
「は?」
「お前名前は?」
「実渕琴心よ」
「ことこ……か。宜しくな。琴心」
「えぇ。……じゃなくて!
明日また話すってどういう事よ!」
「俺らのアジトに来てくれ。逃げんなよ?」
「誰が逃げたりなんかするもんですか。
いいわ。どこよ?そこのアジトは」
「俺が明日お前を迎えに行く。」
「私の家知らないでしょ?」
「今から送っていくから大丈夫だ」
なんて身勝手な人…
まぁ、いいわ。
霧野俊…ねぇ……?
どこかで聞いたことのあるような名前だけど、思い出せない。
明日には思い出すでしょ。
自分のチームは弱くないと言い切ったんだからそれだけ自信があるってこと。
これで弱かったら承知しないんだから。
「あ、ここよ。私の家」
「ここか…じゃあ明日迎えに来る」
「分かったわ。じゃあね」
「あぁ」
私は玄関のドアを開けてリビングに向かう。
いつもなら絶対にしないけど、今日はどっと疲れたから制服のままソファに寝っ転がった
その時にふと頭にさっきの光景が蘇ってきた。
あそこまで自信を持っていたとなると本当に強いチームなのかもしれない。
今思い返してみればあの容姿もあの名前も私は知っているような気がする。
友達が騒いでいた人の中の1人なのかもしれない。
よくカッコイイ不良がいると言っているから可能性はなくはない。
まぁ、明日になれば全て分かることだ。
気長に待ってみようじゃないか。