森での出会い
英語は苦手です(唐突)。
国王が帰ってから数週間後、コウとミーナは魔獣の森である調査をしていた。
「ミーナ、そろそろ魔獣が出てくるぞ。いつも通りに相手から目を離さず、隙を突いて倒すんだ」
「うん、やっぱりいつもの魔獣の数より多くなってるね」
ミーナが小太刀の代わりに持たせた少し長い短剣を構えて、辺りに気を配りながら言う。
9月頃になると、普段森の奥にいる魔獣が冬に備えて森から出てきて、木の実やきのこ、果てには人村まで襲うことがあるので、その対策でこの時期は村人が一斉に狩りを始める。
ここ最近は大量の魔獣が狩られ、毛皮や魔石、魔獣の肉が沢山手に入り村人達は喜んでいた。
しかし、数日前から怪我を負う者が少しずつだが増えてきている。
毛皮や魔獣の肉が取れる反面、怪我人が出るのは仕方のない事だが、ここ数日の間で怪我を負った者達の数が例年の倍ほどもいるのだ。
それに魔獣の様子が少しおかしかった。まるで、何かから逃れようとしているみたいに、というのがコウの感想だった。
「そうだな。やっぱり何か原因があるだろうね。それと………来たよ」
『『グルガァァァァァ!!!』』
コウが呟くと共に、森の奥から2匹の熊の魔獣が姿を現し、コウとミーナに襲いかかってきた。
「やっぱりギーグベアーだったか。ミーナ、こっちの1匹を抑えているから、1人でそっちの1匹を仕留めてみるんだ」
「わかった!気を付ける所は牙と爪だったよね?」
「その通りだ、気を引き締めて相手するんだぞ」
ミーナが言った通り、ギーグベアーの最も気を付ける所は牙と爪である。
ギーグベアーの牙は大きくて鋭く、一度嚙みつかれれば容易く皮膚を裂き、下手をすれば骨さえ貫く。そして爪も同じ様に大きくて鋭く、厄介な事に弱い毒性を持っていて、この爪で引っ掻かれたら一日中は苦しむ羽目になる。
子供が相手をする様な魔獣ではない事は明白だが、今回運がなかったのはギーグベアー達であった。
「ッ!」
『グワゥ⁈』
コウは襲いかかってくるギーグベアーの内、1匹だけに【覇気】を使って動けなくさせる。
その隙にミーナが残った方のギーグベアーを正面から相手する。
『ガァァァァ!』
「よっ!」
ギーグベアーは 大きく腕を振って爪でミーナを切り裂こうとするが、難なく見切ったミーナに避けられる。
普段からコウの厳しい戦闘訓練を受けているミーナからすれば、造作もない事だ。そして腕をから振らせたギーグベアーが腕を戻すより速く、ミーナが逆手に持っている短剣を一閃させる。
『グァッ………』
一閃された短剣はギーグベアーの喉元を裂き、一瞬遅れて吹き出した血と共に、その一撃でギーグベアーは絶命した。
(やっぱりミーナに短剣をもたせて正解だったな。それに技を使わずに仕留めているし、そろそろ中伝の技を教えても大丈夫だな)
コウはそう思い、敵を倒した後に敵を仕留めたか確認しているミーナに声を掛けた。
「倒した後の確認も出来ているし、ちゃんと敵の行動も見て隙を突いているね。ミーナ、ちょっとこっちにおいで」
「?、わかった」
頭に?を浮かべて近くに来たミーナの頭を優しく撫でてやった。いきなりの事に驚いていたミーナだが、すぐに気持ちよさそうに為すがままになって、尻尾を振り嬉しそうな顔つきになった。
「それと、ミーナに草薙流の中伝の技をこれから教えるよ」
「!、本当!?」
「あぁ、だからちょっと短剣を借りるよ」
コウはそう言い、ミーナから短剣を借り、喋りながらずっと維持していた【覇気】を解除して、威嚇しているギーグベアーの正面に立つ。
『グルゥゥゥゥ!』
威嚇しているギーグベアーから目を離さずに、右手で持った短剣を構え、一瞬にして駆け抜ける。
「草薙流小太刀術中伝、【彼岸花】」
『グルァァァ!!!』
技をくらったギーグベアーは、胸元に開けられた小さな穴から彼岸花の様に血を前後に吹き出しながら、崩れ落ちて動かなくたった。
「なんか難しそうな技だね」
「まぁ、かなり難しいだろうね。この技は【彼岸花】と言って、相手の身体に刺突を入れた後、相手の体を軸に回転して、相手の背後から同じ位置に刺突を入れる二連撃の技だ」
最初、前世でこの技を見せてもらった時はちょっと引いたものだ。
「この技以外にも後で教えるから、そろそろ調査に戻ろうか」
「わかった、それにしても本当にいるのかな?凄く大きな狼なんて」
そう言ってコウとミーナは森の奥に向かって走りながらこの森に来た目的を再開する。
コウ達がこの森に来たのは最近増えた森の奥から来る魔獣の調査の他に、とある魔獣の調査をすることである。
狩りが始まる前日に何人かの村人が夜遅くに巨大な狼の様なものが森の奥に向かって走っていくところを見たらしい。
最初、その村人達は寝ぼけて見た幻覚だろうとすぐに忘れたそうだが、翌日に森の奥に向かって続く血と獣の足跡が発見され、夜にその巨大な狼を見た場所だったことから夢ではないことが判明した。
その日から森の奥から出てくる魔獣の数が僅かに増えていることからタマモ達はその魔獣が関係ある可能性もあるので、現在カンナギ村で最も強いコウとミーナに調査を任せることにした。
ついでにタマモは「コウ達と共に行くのじゃ!」と言っていたが、オルドさん達から「村の守りが薄くなるのでダメです絶対に」と言われ、渋々といった感じで諦めていた。そして今にいたる訳である。
「実際、俺たちはその魔獣の足跡を辿って来てるから、その先に何かいるのは確かだろうね」
「かなり大きな足跡だけど、どれぐらい大きいのかな?」
「3メートルは余裕であるな…っと、そろそろ中間地点だから【魔力波】を使うか」
コウは一度止まり、【魔力波】を発動した瞬間、森の中丁度真ん中辺りに妙な魔力を感じた。
「………ん?」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「あぁ、森の丁度真ん中の辺りに何かいるんだ。多分だけど俺たちが探してる魔獣かもしれない。行ってみるぞ」
周りに気を付けながら走り、身体強化を使ってその魔力の元に向かう。そして森の奥を視界に捉えた時、コウとミーナはその魔力の正体を見つけた。
「あれは………白い狼、だな」
魔力の正体は、高さ4メートルはある体躯を横たえ、血で体を汚した巨大な白狼であった。
「………タマモの本でも見た事のない魔獣だな、それに………普通の魔獣が持っている魔力と少し違う?」
「お兄ちゃん、あの魔獣は死んでるの?」
「いや、寝ているだけだけど、多分長生きしすぎたんだろうね、弱ってきてる」
そう呟いた時、白狼がゆっくりと体を起こし、こちらに警戒しながら顔を向けた。
(見つかった!)
100メートル以上も離れているのにあの魔獣はこちらの気配に気づいた。その感知能力だけでもある程度の強さがある程度わかる。
(最悪の場合、戦わないといけないかもな)
そう考えていると、どこからか威圧する様な女性らしき声が聞こえた。
『誰です、そこにいる者達よ。今すぐ姿を見せなさい』
最初は声の主が誰かわからなかったが、恐らく白狼が言ったのだろう。コウは確認のために白狼に声を掛けた。
「………この声の主はあなたですか?」
その問いが聞こえたらしく、白狼は答えた。
『そうです、しかしまずはこちらの要求に答えてもらいたいのですが?』
そう言って白狼は警戒を強くし、こちらに答えを求めてきた。
(この白狼は警戒はしているが敵意はないみたいだし、近くに魔獣の気配もない。それに村で目撃されたのはあの白狼で間違いないだろう)
そう結論を出したコウは武器を納め、白狼の元に向かう。ミーナも少し警戒はしながらもコウと同じ様に武器を納めてコウの後をついていく。そして白狼の前に姿を見せた時、先に口を開いたのは白狼の方だった。
『………あなた達は、只の子供では有り得ないほどの魔力を持ってますね。もう一度聞きますが、あなた達は誰ですか?』
「………俺はこの森の近くにあるカンナギ村に住んでいる人族のコウと言います。あなたと敵対する気はありません」
「えっと……コウお兄ちゃんの妹で、狐の獣人族のミーナです。お兄ちゃんと同じで敵対する気はありません」
コウが簡潔に自己紹介をするとミーナも自己紹介をした。そんなコウたちの目を白狼はじっと見つめた後、静かに横たわり警戒を緩めた。
『あなた達が嘘を吐いていないことはわかりました。確認の為とはいえ、あなた達を警戒して申し訳ありません』
「いえ、お気になさらず。あなたが警戒するのも仕方ありません」
近くで見てわかったが白狼に付いている血は全て他の魔獣達のものばかりだった。恐らく魔獣達はこの白狼から逃げてきたのだろう。
『そう言って貰えると助かります。そういえば、まだあなた達に名を名乗っていませんでしたね』
そして白狼は己の正体をコウ達に告げた。
『私は人々から神獣フェンリルと呼ばれているものだ』
最近、地元付近で小さな事件が多発している、今日この頃。