異世界へ
今家で慰めてくれるのは、犬だけです。(涙
-コウ-
目を開けると俺は祠の様な所に入っていた。
石造りで小さいが、何処か神聖さを感じる。周りからは、木々が風で擦れ合う音が聞こえることから、森の中であることがわかる。
体を起こそうとしたが、思う様に動かない。
自分の目に小さな手があることから、自分が赤子だということがわかる。
(最初から鍛え直すか)
コウがそう考えていると、遠くからこっちに向かって歩く一つの足音が聞こえた。
その足音は祠の前で止まり、足音の主の全貌を見る事が出来た。
着物に少し似ている服装のその人物は綺麗な顔立ちの女性であり、腰まであるロングヘアの金髪で、瞳は碧眼で頭に狐の様な耳を持ち、尾骨の少し上辺りから、九つの狐の尻尾が見える。
「御主がアウリスの言っていた未来を切り開く者か。妾はタマモと言う、見ての通り狐獣人だ。これからよろしくの」
タマモと名乗った狐獣人の女性はそのまま俺を抱き上げ、自分の住んでいる社に帰って行った。
その途中、赤子故なのか俺は眠りに落ちていた。
-タマモ-
アウリスの奴が久しぶりに夢に出て来たと思ったら、いきなり人族の赤子を育てて欲しいと言ってきた。
別に妾は人族に偏見などは無いが、一部の人族の事は嫌っておる。
この村には様々な種族が住んでいるが、人族は住んでいない。村の外からお忍びで来る国王はいるのだが。
何故アウリスが人族の赤子を育てて欲しいのか聞くと、
「その赤ちゃんは未来を切り開く者だからだよ」
と答えた。
「未来を切り開く者?その赤子がか?」
「うん!お兄さんなら種族間の問題を解決する希望になってくれるよ!」
「……その言葉から察するに、その赤子は転生せしものだの。それにしても、希望……か。その赤子がそうなってくれると、嬉しいのだかの」
種族間の問題を解決するのは、難しい事だ。
だかもし、その問題を解決できる者が居るとするのならば、それは時代が変わる時でもある。
「その赤子の前世は、ちゃんとした人格者だったのかの?」
「そうだね〜人格はちゃんとしてたよ、それに前世でもすごく強くて、頭も良くて優しいんだ!」
「御主がそこまで言うからには、信用は出来そうであるの。しかしその様な者に妾は心当たりがないのだが?」
「それはそうだよ。だってお兄さんの前世はこの世界とは別の世界だもん!」
「何じゃと」
それを聞いた瞬間、妾はアウリスに真剣な顔で重要なことを聞いた。
「他の世界の者を、無理矢理連れてきたのではなかろうな?」
「大丈夫だよ!だって本人のお兄さんが自分で決めた事だもん!」
「………なら、文句はない」
アウリスは即答し、言い切った。此奴が嘘がつけない事は、妾が良く知っている。
なら、この世界の未来を担う赤子を、妾に受け入れない訳にはいかない。
種族間の対立を失くすのは妾の悲願でもある。200年前、人族の自己満足で世界の敵にされた者達がいた。世界のした誤解をそれを人族の赤子が解決しようとしている。拒む理由など、ない。
「わかった。その赤子の世話、妾が直々にするかの。その方がいろいろと面倒がなくなる」
「そうだね、よろしく!そろそろ時間だから、またいつかね!」
「うむ、またいつかの」
そして妾は夢から覚めた。そして祠の森の方に一瞬違和感が生じた。
恐らくアウリスの言っていた赤子が来たのだろう。
そう確信した妾はいつもの服に着替え、祠の森に向かって歩いて行った。
この祠の森は不思議な感覚がする。その感覚のせいなのか、魔獣が寄り付こうとしない。
祠への道を進みながら、子供の時に来た時の事を思い出す。
妾が産まれる前からこの森は存在していたらしい。初めてこの森に来た時は、この感覚の正体を突き止めようとして、迷子になって親に怒られていた。今でもこの不思議な感覚の正体はわからない。
随分と懐かしい記憶だ。そんな思いを募らせていると、祠が見えてきた。
祠の中には人族の赤子がいた。
その赤子はイクスティアでは珍しい黒髪黒眼で、赤子特有の可愛らしさがある。転生者であるからなのだろう。既に自我を持っているのか、ずっと此方にその黒い目を向けている。
「御主がアウリスの言っていた未来を切り開くものか。妾はタマモと言う、見ての通り狐獣人だ。これからよろしくの」
妾はそう言って赤子を抱きかかえ、社へ向かって歩きながら、この赤子の事を考えていた。
(この赤子は未来を切り開くものとアウリスは言っておった。その切り開いた未来がどんな結末を迎えるかなど、誰にもわからぬだろう。だが、その未来の為にこの赤子の親代わりをするのは、面白そうだの)
そう思いながら帰っている途中、いつの間にか赤子は穏やかな寝息を立て、眠っていた。
タマモはその様子を見て、微笑みながら歩き、途中、村の者達に会い、赤子の事を聞かれながら社に帰って行った。
漢字試験、受けよっかな。