昇華と商談
かなり遅れてすいません(-_-)
数分後…、
ユキカゼとタマモがガッドさんを連れて居間に入って来たところで昼食を食べ、食器を片付けた後に俺たちはオルドさんから『昇華』についての説明を受けていた。
「簡単に言うと『昇華』ってのは、魔獣の進化と違って【その者の経験や心境の変化によってより上位の種族に覚醒する現象】の事だな。
それと種族によって昇華した後の変化は異なるんだが、昇華前と比べてかなり強くなってたり、稀に特殊能力が発現するやつもいるな」
オルドさんの説明を聞いていると、横に座っているガッドさんからも補足が入った。
「その特殊能力というのは例えば、タマモ殿の【幻炎】だな。確かコウ達は訓練で見た事もあるからわかるだろう」
「はい、わかります」
旅の時に遭遇するであろう魔獣について色々調べていると、アルフレッドさんから幻を見せて惑わせて来る魔獣がいる事を聞いた。
もし、遭遇したらどう対処するかを悩んでいた時、タマモから提案されて始めた訓練でタマモが使っていたのでわかる。
最初は火属性の魔法だと思っていたが、どうやら昇華による特殊能力だった様だ。
ちなみに幻炎を使った訓練とは、自分を中心に円状にファイアーボールを出してもらい、ただ1つの本物を探し出してショットで撃ち抜くというものだ。
(あれは結構見分けづらいからな…)
そんな事を思っていると、黙って聞いていたユキカゼが口を開いた。
『私の様な神獣も、どちらかと言うと進化ではなく昇華ですね。
それに昇華した者たちは皆、長寿なのですよ』
「それは…、どういう事だ?」
俺が聞き返すと、ゴルさんが答えてくれた。
「それは、昇華する事によってより上位の種族になる=生物的に強くなり、寿命が延びるからだね。」
『そういうことです。それに昇華は強みは、進化と違って誰でも強くなれるということです』
その説明に、俺は気になる事があったので聞こうとすると、隣に座っているルナが手を上げて俺が気になっていた事を質問した。
「質問、魔獣の進化とどう違うの?」
「あっ、それはミーナも思った!タマモお姉ちゃん、どんな風に違うの?」
どうやらミーナも同じ事を考えていた様で、その事に詳しそうなタマモに首を傾げて聞いていた。
「うむ、進化との違いは、その魔獣の立場と魔素が関係しておる、どうしてかわかるか?」
「?……わからない、どうして?」
「私もわかんない…」
ルナは首を傾げ、タマモに聞き返し、ミーナは狐耳を下げて眉を寄せていた。
「まぁ、わからなくても仕方がないのぅ…。コウはわかるか?」
「そうだな……」
タマモがこちらに聞いてきたので、俺は少し考えた後に自分の考えを答えた。
「……立場が関係あるのは統率者の様な個体が強い個体であるから、そして魔素が関係あるのは、ウィンドウルフを例に挙げると進化する時に周りの風の魔素を吸収するから……かな」
「その通り、コウが言ったことが答えじゃの」
俺の予想は正しかった様だ。タマモはそのまま話を続ける。
「進化は強い個体と魔素が関係あるが、昇華にそのようなものは関係ないのじゃ」
『神獣の中には争いを嫌う者も居るので、昇華しないで転生する者もいます』
「なるほど…」
二人の説明を聞いてどう違うのか理解できた。
横を見るとミーナとルナもちゃんと理解している様だった。
「さてと…、」
タマモがそう呟くと、手を叩いてこの場にいる全員の注目を集めて話を変えてきた。
「これで昇華と進化の違いがわかって貰えたかのぅ……それでは次に、宴の事について話そうか」
「おぉ、そうだなタマモ殿。そのことが本来ココに集まった理由であったな!」
「前回は確か40年前だったか?」
『この村にもその様な催し物があるのですね』
「「宴?」」
「何かやるのか?」
タマモ、オルドさん、ガッドさん、ユキカゼが急にテンションを上げて話あっている時に出てきた宴という言葉に俺達が揃って首を傾げるとゴルさんが説明してくれた。
「あぁ、3人は知らなかったんだね。実はこの村の古くからの習わしで、村の者の誰かが昇華した時は宴を開いて盛大に祝う事にされているんだ。……まぁ、実は私も初めてなのだがね」
ゴルさんは頬を掻いて苦笑しているが、確かまだ30代なので40年前にあったという宴のことは知らなくて当然だ。
「そんな習わしがあったんですね」
俺がそんな事を言っていると、ミーナが横から服の裾を引っ張って質問してきた。
「ねぇお兄ちゃん、宴って何?」
「ん、私も気になる」
どうやらルナも気になっている様である。まぁ、長く滞在できる場所がなくて旅を続けていたのだから、知らなくもおかしくはない。
「そうだな……宴っていうのは、祝い事でみんなで集まって料理を食べたり、話し合ったりして楽しむことだよ」
「面白そう!」
「ん、確かに面白そう」
説明を聞いたミーナは二尾をブンブン振り、ルナはどことなく眼がキラキラしている様に見えた。
俺が二人の反応に微笑みを浮かべていると、ゴルさんがミーナに話しかけた。
「今回の主役はミーナちゃんだから、何か要望があったら早めにあの方々に言っておいた方がいいよ」
そう言ってゴルさんは目線の先にいる案を出し合っている人達を指した。俺たちが話している間もいくらか案が出ていた様で、ゴルさんの言葉に従った方が良さそうだった。
「じゃあ、俺達も参加するか」
「うん!お兄ちゃん!出来ればお稲荷さん作って欲しい!」
「あぁ、いいよ」
「やったー!」
その後、タマモ達の議論の輪に入って案を出し合い、翌日の夜に宴を開くことになった。
ー 翌日 ー
朝起きてから、昨夜からしている宴の準備をしていると、社の外からアランの声が聞こえた。
「コウ兄!居る?」
「居るぞ、どうした?」
俺を探している様だったので返事をした。
「なんか村の入り口に馬車が来てさ、ゴルさんがその馬車から出てきた人と話をしたらコウ兄呼んできてって言われた」
「馬車?」
俺はこの村の外に狩りや訓練、隣町の買い出し以外で出たことがないので、外で自分に用がある者なんているのだろうか……?
(いや、1つだけあったな、もしかしたら……)
俺は確認の為にアランにとある事を聞いた。
「なぁアラン、その人がゴルさんは商会の人とか言ってなかった?」
「そういえば、なんかコーンなんとか商会の人って言ってた」
「もしかしてコーンウェル商会じゃないか?」
「そうそう!コーンウェル商会って言ってた!」
どうやら俺の予想は当たっていた。
普通に考えると、オーガンド国王の手紙にも近いうちにコーンウェル商会の者がこちらに来る旨は書かれていたので、それ以外には考えられなかった。
「悪いけど今は手が離せないからココに案内してもらえるか?」
「わかった!さっきの人呼んでくる!」
そう言ってアランは自分が来た道を全速力で走って行った。
「さてと、迎える準備をしますか」
アランがコーンウェル商会の人を連れてくるまでの間に、急いで迎える迎える準備をしなければならない。
まず作っている料理の火を止め、次にお茶と来客用に作っておいたお茶受けを取り出す。
それを机に置いて迎える準備を終わらせると同時に、玄関の方から話し声が聞こえてきた。
素早く玄関まで行き扉を開けると、ちょうどゴルさんが声を掛けようとしていたところだった。
「あぁ、コウ君丁度良かった。お客さんを連れて来たよ」
そう言ってゴルさんは背後にいた人物に俺が見える位置に移動し、そこで俺は初めてその人物を見ることになった。
その人物は薄い茶髪の男性で、少し老いてる様に見えるがガタイもしっかりしており、物腰の柔らかそうな顔をしている。そして身につけている服装は装飾は少ないが中々に年季が入っており、古参の人物であると推測できた。
男性の方からも視線を感じたので顔に視線を戻すと、一瞬だけ目があった。
すると男性は「ほほぅ…」と感心した様な声を漏らした。
「少年は中々いい眼をしているのぉ、これはあのオーガンドが気に入る訳だ」
どうやらこの男性はオーガンド国王と仲が良いのか、呼び捨てしている。しかしまだこの男性に自己紹介をしていないので、俺から話を振った。
「初めまして、私はこのカンナギ村に住んでいるコウと言います。今回は商談の為に来てもらってありがとうございます。貴方とは良い商談が出来る事を願います」
俺が先に挨拶をすると、男性は頷いてこちらも挨拶をしてきた。
そして、俺はこの人物の正体を知った時は少なからず驚いた。なぜなら……
「こちらこそ初めましてじゃな。私は【コーンウェル商会会長】のシモン・コーンウェルという者じゃ。こちらこそ、良い商談が出来る様願いましょう」
この男性が、今回商談をするコーンウェル商会の最高責任者だったからだ。
「!…まさか、シモン会長自ら来るとは驚きました」
そこそこ位の高い人物が来るとは思っていたが、いきなり最高責任者とは予想外だった。
「そうかそうか、驚いたか。しかしあれほどの物を作る人物に会うのじゃ、別に不思議な事ではない」
「それは、ありがとうございます」
この世界では調味料が地球に比べるとかなり少ない為に味噌は売れると思っていたが、どうやら味噌はこの人に取っては直接商談をする程の価値がある様だ。
「それで、早速商談をしたいと思うのじゃが、今すぐ始められるかね?」
「はい、始められます」
俺がそう答えると、シモン会長はさっきまでの物腰の柔らかそうな顔を引き締め、迫力のある真剣な顔付きに変えた。
その迫力は中々のもので、俺もすぐに真剣な顔付きに変えた。
「ゴルさん、タマモを呼んできて欲しいのですが…」
「わかった、私はタマモ殿を呼んできますね」
「お願いします。それではシモン会長、中で商談を始めましょう」
「あぁ、そうしようか」
ゴルさんにタマモを呼びに行ってもらい、俺はシモン会長を応接間に案内した。
「遠くから来られて疲れていると思って、お茶と菓子を用意して置きました」
「おぉ、それはありがたい。それでは頂くよ」
そう言って座ってもらい、お茶と菓子を食べると少し驚いた様な顔をしてこちらを見た。
「私が来たのはつい先程だから、これは君が作った物かの?」
「そうです、私が作りました」
そう答えるとシモン会長は微笑み、「中々に美味しい物じゃのぉ」と言って全て平らげた。
そしてお茶を一口飲むと、再び真剣な顔付きに戻り、カップを机に置いたところで俺から話した。
「さて、それでは…」
「うむ、今度こそ商談を始めるとするかの」
どうでしたか?
次こそは近いうちに投稿したいと思います。
8月8日、多少の編集と最後の部分を追加