神獣の頼み
前までの話を少し付け足しました。
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【神獣】について
【神獣】とは、神々の恩恵を受けた知能ある魔獣達につけられる称号である。
彼らに性別はなく、繁殖行為などは不必要なものである。
他にも【聖獣】や【邪獣】等、同じく知性を持つ魔獣も存在するが、その中でも【神獣】は高い戦闘力を持ち、無益な争いを嫌うと言われている。
だが、【神獣】は他の魔獣にはない特殊な力を持つ反面、その特殊な力故に子を残せない体質である。
私は、この体質は神々が【神獣】達に与えた試練なのかもしれないと考えている。
著者
ロバート・クローリー
より
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ーコウー
白狼は自らを【神獣フェンリル】と名乗った。俺の認識で間違いないのなら、有名な旅作家、ロバート・クローリーが生前、最後に書き残した本、【我が歩みし道】で出てきた【神獣】で間違いないだろう。
まさか【神獣】に出会うとは思って見なかったが、確認の為に聞いてみる。
「あなたが、俺達が【神獣】と呼んでいる、あの【神獣】ですか?」
『はい、私は人々が【神獣】と呼ばれている存在です。しかし、月日が経ちすぎて、見ての通り私は弱ってきています』
確かに俺とミーナが遠目から見た限りでも、弱っているのは明白であった。
しかし、フェンリルは弱ってきていると言っていたが、恐らく嘘なのだろうと俺は思っていた。その理由は………、
「その……神獣さんはもうすぐ死んじゃうの?」
そう、ミーナが言ったようにフェンリルは気丈に振る舞っているが、よく見れば体を支えている前脚は震えていた。
『………どうやら、あなた達には演技が通じない様ですね………」
不安そうなミーナの目を見たフェンリルは、ゆっくりとその巨体を大地に伏せさせた。
『私は…長い月日を…生き続けました。いつかこうなる事はわかっていました』
懐かしむように目を閉じた後、フェンリルはそれを見上げた。
確か、魔獣達の寿命は短くても約10年、永くても約300年程だが、【聖獣】や【神獣】に至っては5倍近く生きると言われていた。
つまり、目の前のフェンリルは約1500年近くは生きているのだろう。
俺がそう思った時、目を見開いたフェンリルが驚くべきことを語り始めた。
『ですが…私は死ぬ事はこれが初めてではありません』
「ふぇ?」
ミーナはその言葉を聞いた時に間の抜けた声を出し、俺はその言葉が気になった。
「……それは…どうゆう事、ですか?」
『では、その質問に答える前に、こちらから一つ質問を…あなた達は【神獣】についてどれくらい知っていますか?』
フェンリルはいきなり俺とミーナに質問をしてきた。
ミーナは「えーと、」と少し考える素振りをした後に、
「神様達の恩恵?だったかな?を持っていて喋る魔獣さん?」
と答え、俺はその答えに自分の知る限りの補足を加えると共に、疑問に思っていた事を聞いてみる事にした。
「無益な争いを好まず、性別はなく、その為子を産めないが、特殊な体質を持っている…という位ですね。ですが…あなたは女性の様な声音ですね」
そう答えると、フェンリルは俺の方を向き、疑問に答えてくれた。
『確かに私達【神獣】は性別がありませんが、私は女性に近いですね。そして私が死ぬ事が初めてではない理由は、先程あなたが答えたものの中にあります』
「………特殊な体質、ですね」
『その通りです』
俺の答えの中にあるとしたら、その特殊な体質しかないだろう。
そしてその体質についても喋ってくれる様だ。
『私達【神獣】の特殊な体質、それは死した後にその亡骸に魔力や魔素を吸収し、新たな命としてその亡骸から記憶を継いで誕生する、というものです』
「うーん、あんまりわかんない」
どうやらミーナにはわからない様だが、俺はなんとなく理解した。
「なるほど、だから何度も生と死を繰り返しているんですね」
『どうやらあなたは理解された様ですね。それにしても、あなたは面白い子供ですね』
フェンリルはそう言い、俺に視線を向けてきた。
「俺が面白い、ですか?」
『えぇ、あなた達は2人とも子供ではあり得ない量の魔力持ち、その身のこなしを見るからに相当の実力者である事も伺えます』
フェンリルは『それに…』と呟き、ミーナの方へ顔を向け、
『そちらの女の子…確かミーナと言いましたね。あなたはこの男の子、コウの事が好きみたいですね』
と言った。
それを聞いたミーナは顔に喜色を浮かべ、俺に尻尾をブンブン振りながら抱きついてきた。
「うんっ!私はコウお兄ちゃんのこと大好きだよ!戦い方や料理の事も全部コウお兄ちゃんやタマモお姉ちゃんが教えてくれたし、それにいつも優しいの!だから大好きなの!」
それを聞いたフェンリルは『そうですか』と呟やき、恐らく笑みを浮かべたのだろう、口元を少し上げていた。
俺はミーナの頭を撫でた。
「俺もミーナやタマモ達のこと、大好きだよ」
「んっ、くすぐったいよ!」
『あなた達は本当に仲がいいですね。そこも、私がコウを面白いと思ったところですよ』
再びフェンリルは俺の方を向き、先程の話の続きをした。
『長く生きていましたが、コウとミーナの様に異種族同士で仲がいい子供は珍しいです。それにコウはその見た目に反し、様々な事を知っています。どの様にして育ったのか、興味があります』
そこで一旦フェンリルは『なので』、と話を切ると俺に真剣な眼差しを向けてきた。
俺はその真剣な眼差しを受け、こちらも真剣な顔を向けた。
『コウとミーナに頼みがあります』
「?」
「頼み、ですか…」
『えぇ、2人が良かったらの話ですが…』
そしてフェンリルは俺達に頼み事の内容を言い放った。
『生まれ変わった私を、あなた達の側に置いてくれませんか』
それが、フェンリルの頼み事だった。
だいたい一ヶ月ぶりですね。
リアルで少し忙しかったので、なかなか書き込めなくてすみません。
さて、森での出会いは次で終わりの予定ですが、まだまだ第1章は続きます、と言っても後4話ぐらいです。
次は数日以内に更新できそうですので楽しみにしていてください!