ハンムラビ
僕の名前は、近藤翔太。
10歳、小学5年生。
好きな食べ物はポテトフライ。
学校の友達は・・・・・・いない。
同じクラスの周防マコトのことが大嫌いだ。。あいつの顔を見るたびに、体が熱くなる。汗が出る。手を握りしめている。あいつの顔を見たくない。見たくない。ひっかきたい。かきむしりたい。ほじくりかえしたい。溺れさせたい。バラバラのぐちゃぐちゃにしてやりたい。僕から大切な友達を奪ったあいつから全てを奪い返したい。フォースがされたことをあいつにしてやらないと気がすまない。
ーーーフォースは僕の友達だ。ふわふわした体を持つトイプードルだ。僕が落ち込んでいる時は、いつも慰めてくれる。僕が嬉しい時は一緒に遊んでくれる。僕が寂しい時は一緒にいてくれる。
もう、フォースはいない。
あいつに殺された。
だから、僕はあいつを殺さないと気が済まない。
「何か、くせーぞ。」
最初はそんな発言を周防マコトはしたと思う。
「近藤のところから匂ってくるぞ。漏らしたんじゃねーのか?」
当然、僕は漏らしていないし、とんだ言いがかりだった。それなのに、周防の取り巻きの奴らが
「近藤汚ねー、ちかんよなー」
「漏らしてなんかいないよ、やめてよ。そんなこと言わないでよ。」
「近づくなって言ってるだろーがー。」
周防の友達の一人がそう言って、僕を手のひらで押して転ばす。
転んだ僕は周りを見回してみる。
皆、僕を見て笑っていた。面白おかしそうに笑っていた。何故、皆が笑っているのか僕にはわからなかった。
その日、周防の発言から始まった日常。いじめの日々は始まった。
「近藤、教科書の67ページの5行目から読んでみろ。」
「・・・・・・」
「どうした、近藤?」
「先生、すみません。教科書忘れました。」
「そうか、じゃあ、隣から見せてもらえ。次から気をつけろよ。」
「・・・・・・はい。」
教科書を忘れるわけがない。ちゃんと前日の夜に時間割を確認して、ランドセルに教科書を入れたのだから。
周防を見るとあいつは笑っている。嫌な笑いだ。
授業終了後、僕は近藤に問いつめる。
「ああん? 俺が盗ったっていうのかよ。証拠もねえのにへんなこと言うなよ。」
「証拠はないけど・・・」
「なら、俺に話しかけんな。」
僕は何も言えない。このガキ大将に向かって。
クラスの女子のリコーダーがなくなった事件があった時もあった。
「近藤が怪しいと思います。あいつリコーダーを持ってうろうろしているの見ました。」
僕は驚く。リコーダーを持ってうろうろした記憶なんて当然ない。
しかし、僕のランドセルから彼女のリコーダーは見つかり、変態の汚名を着せられることになる。
「近藤、キメー」
周防は笑う。リコーダーを盗まれた女子は泣き、クラスの女子の大半は、僕に罵詈雑言を浴びせる。
「僕は何もしていない」
嘘つき、嘘つきとクラス全体が僕を非難する。僕の敵となる。
あいつらは敵だ。
学校の友達は0人だけど、学校の敵は100人できた。
僕は毎日のように泣いた。そんな時、フォースは僕の顔を舐めた。僕の涙を拭うように、舐めた。無邪気な顔を僕に見せてくれる。みんなが敵でもフォースだけは味方だよという意思表示かのように無防備な姿を見せてくれる。
フォースがいてくれれば、僕はもう何もいらない。
毎日一緒にご飯食べて、毎日一緒に散歩して、毎日一緒に公園で遊ぶ。
僕の日常はいじめられる日々だったけど、フォースの思い出をたくさん作った日々だった。
辛かったけど、楽しかった。学校というつらい監獄から抜け出れば、最愛の親友が僕の帰りを待っている。
「フォース、これからもずっとずっと友達だよ。」
河原で僕はフォースと永遠の友情を誓った。
そんな僕とフォースの世界は、簡単に壊れる。
河原でフォースと遊んでいた僕は、運悪く、近藤達に見つかった。
無意味に近藤に殴られた。大丈夫、この時間が終われば、また幸せな時間を迎えられる。
ただ、我慢すればいいだけ・・・・・・
殴られている僕を見てフォースは近藤に向かって吠えた。
いつもはやんちゃだけど、決して人を傷づけないおとなしいフォース。
そんなフォースが僕のために近藤に向かっていく。何て嬉しいんだ。
しかし、近藤は残酷にも勇敢なフォースを蹴り飛ばす。
「フォース!!」
蹴られたフォースは川に落ちて、もがきながら沈んで行く。
僕も必死に川へ飛び込む。
小学5年生にもなって僕は泳げない。しかし、そんなこと関係ない、フォースが、沈んじゃう。
無我夢中だった。
フォースを抱きかかえたまま僕は川辺にあがる。
いつも温かいフォースは冷たくなっていた。
「フォース! 目を開けてよ。しっかりしてよ。僕を置いてかないで。」
フォースは動かない。
「やめろよ。やめてよ。動いてよーーー」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
叫んでいた。近藤達の姿は見えない。
僕の世界を壊すな。
僕とフォースの世界を壊すな。
何でなんだよ。
ちくしょう、ちくしょう。
殺したい。殺したい。
嗚咽を漏らす。
「おえー」
胃の中のものを僕は吐き出す。
どれくらいの時間が経っただろうか? 穴という穴から水分を吐き出した僕はよほど酷い顔をしていたらしい。通りかかったお姉さんに声をかけられる
「大丈夫ですか?」
「じゃない」
冷たくなった友人を抱きかかえたまま、僕な枯れ尽くした涙とならない涙を流す。
お姉さんは僕に温かい目を向ける。いや、哀れみの目だったかもしれない。
そして言った。
「あなたはその理不尽を受け入れられますか?それとも理に適うように復讐しますか?」