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復讐屋  作者: 未半人前
3/8

知人の数が戦闘力

 人は一人では生きていけない。

 皆つながっている。

 では、皆とは何か?

 知人の数が多いほど強いのか?

 ぼっちは最弱なのか?

 数は力なり。

 最近のスマホゲームもフレンドが多いほど、有利な展開になる。

 コミュ力大事。

 今にして思うと姉は誰からも愛され、慕われ、友達100人なんて楽勝な最強だった。


「あなたのお姉さんは、間違えられて殺されました。あなたはその理不尽を受け入れられますか?それとも理に適うように復讐しますか?」

電話の受話器から若い女性の声がする。




 姉の部屋。可愛らしいぬいぐるみなど一つも置かれていない。洋服ダンス、書類棚、本棚、ベッド、デスク、必要なものだけを部屋に置く実用的な部屋だ。

 俺が勝手に入ると激怒して、ぶん殴られた苦い思い出を甘く思い出す。

 今はぶん殴ってくる姉はもういないのだ。

 少し泣きそうになる。

 姉の死の連絡が入ってから姉の身辺整理を母親と一緒に行っている。

 姉の交流関係は広く訃報を伝える相手のリスト化を俺は今、行っている。

 姉が持っているスマホのロックは外せるかどうかが一番の鬼門で、専門の業者がないかネットで調べてようかと考えていた時、ふと、姉のスマホからmicroSDを取り出し、カードリーダーで読み出す。

 姉に連絡先のmicroSDカードへの移行方法を教えたのは俺だ。

 そして、姉はああ見えてこまめな性格で、登録を増やすとすぐにexportをする。

「よかった。exportしたファイルはPCにコピーしてここからリストは作れるな! って何だこの数。」

 自分が登録している連絡先と比較するのはおこがましいほどの数だ。

 姉が亡くなったことを伝える相手がたくさんいる。

 自分がもし、死んだら誰が葬式に来てくれるだろうか? 学校の奴らか。正直、俺が親しいと思っている者なんて片手で十分だ。

 姉の死は事故死だ。階段から落ちて亡くなった。刺されても死ななそうな人と思っていたが、人間の死なんてあっさりなものだ。もちろん、死なないと思っていたわけじゃない。けど、実感がない。未だに一晩寝たら姉はひょっこり辞めたいだの、金持ちと結婚したいだのと朝から騒いでいるのではないかと夢想する。

 俺は母親の顔を見る。散々、泣き尽くした顔。俺はその顔を見たくなくて直視できなかった。

 リスト作りも概ね終了しかけた時に、俺は【復讐屋】と登録された連絡先を発見する。その聞き慣れない物騒な名前は、リストに入れるべきだろうか? 俺は母親に無用な心配をかけたくなくてリストから外した。俺が代わりに連絡をしとこう。 


 リスト作りが終了したと母親へ伝え、少し休憩がてらに俺は自室に戻る。床に読みかけの漫画が散らかっている。姉の部屋が洋室に対して、俺の部屋は和室。俺の希望ではなく、人気がなかったため、家庭内ヒエラルヒーが最下位の俺がこの部屋に割り当てられた。

 【復讐屋】の電話番号にかける。

 10秒ほどの通知音の後に相手方につながる。

「もしもし、えっと復讐屋さんでしょうか?」

 自分で言っていて何か不思議な感じだ。俺は俺の素性と姉の名前を相手方に伝える。簡単な相槌のみ返ってくる。

「というわけで姉は階段から落ちて亡くなりました。」


「・・・それで」

受話器から相手の質問が飛ぶ。若い女性の声だ。

「あなたのお姉さんは、間違えられて殺されました。あなたはその理不尽を受け入れられますか?それとも理に適うように復讐しますか?」


「・・・はい?」

呆気に取られる。

「あなたが私に電話をしてきたのは、あなたのお姉さんの死に納得しておらずに、復讐を依頼したくて連絡してきたのではないのですか?」

なるほど、【復讐屋】とは名前のとおりのおっかないところみたいだ。俺は呼吸を整えて訂正の言葉を発する。

「俺があなたに連絡したのは、あなたが姉の友達かもしれないと思ったからです。仕事関係だったら、職場から支給されている電話に登録すると思いますし。」

「・・・・・お姉さんが個人的に過去に私たちをご利用になっていたと思いませんか?」

「普通はそう思いますよね。姉が何か被害を受けて、【復讐屋】に依頼して復讐を行った。えっと【復讐屋】とはそういう仕事の認識であっています? でも、そんな公にできないことを姉が自分の携帯に登録しとくと思いませんし、・・・何より」

俺は少し息継ぎをしてから続ける。

「姉は、やられたら自分でやりかえす。決して他人まかせにしない人なんです。だから、復讐屋さんあなたは姉の友達だと思ったんです。違いますでしょうか?」

沈黙の時間。俺はとてつもない失礼なことを言ってしまったのではないか不安になり後悔する。けど、突拍子もないことを言って来たのは向こうの方だ。復讐だなんで、それじゃ、まるで。

「ごめんなさい。あなたに嘘を吐きました。」

女性は言う。

「確かに、私はあなたの姉の友達です。お悔やみを申し上げます。」

「えっと、あっはい。伝えられてよかったです。えっと、それでは・・・」

「お時間宜しかったら、少しお話をしませんか?」

「・・・・・・特に予定はないですからいいですけど。」

姉の昔話でもするのかなと待っていたら。

「私たち復讐屋は、社会の共同生活に置いて生きていく上で誰しも一度は他人から受ける理不尽を受け止めきれずに心を壊す人を救済するために立ち上げました。復讐と言ってもちょっとした可愛らしいイタズラです。一番の目的は依頼者の心のケアです。加害者にちょっと懲らしめることで被害者の心を軽くすることができればいいなと思っています。」

まさかの復讐屋の宣伝だった。

「あなたのお姉さんは私と違って誰とでも仲良くなれて尊敬してました。男、女関わらず相談事も引き受けてました。」

「それは何となく想像できますね。」

「それが、復讐屋の原点です。」

「・・・・・・はい!?」

「相談事を引き受けているうちに相談者が例えばストーカー被害を受けていた場合、そのストーカーに対して復讐して解決を試みたのです。もっとも彼女はぶん殴ってやれみたいな性格の人だったのですが・・・・・」

「俺もよくぶん殴られていましたよ。」

「私と彼女二人で復讐屋を始めました。」

知人の数が多いと戦闘力が高いと思っていたけど、厄介事もその分多くなるんだろう。

「それにしても、まさか携帯の私の登録先に復讐屋という名前をつけていたなんてね。」

「いや、それは多分、俺が姉の手のひらの上で踊らされているだけですよ。」

「・・・・・・どういうことでしょうか?」

「姉は連絡先のバックアップを良く取ります。そのバックアップをmicroSDから復讐屋さんの連絡先がわかったわけなんですが、姉も最初から復讐屋と登録していたわけじゃなく、あなたの本名で登録していました。実は俺、一つ前のバックアップファイルとも比較してみまして、最新は連絡先が追加になっているわけではなく、変更になっているわけではなく唯一あなたの本名から復讐屋に変わっているだけでした。何となくこれは死を予感した姉がこの電話番号に連絡しなさいと言っているような気がしまして。」

「そう・・・・・・」

「あなたは言いましたね。姉は間違えられて殺されたと。姉は何をしていたのですか?」


「本当に殺されなければいけなかったのは私の方なんです。あなたの姉は私と間違えられて殺されてしまったのです。申し訳ございません。」

衝撃の発言だった。




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