カップラーメンは姉より優先
人は一人では生きていくことはできない。コンビニエンスストアにて販売されているカップラーメン一つを例にとっても、想像に及ばない手間と苦労がある。今、啜っている麺だって元は小麦であり、小麦農家が丹精込めて育て上げたはずなのだ。小麦から小麦粉に変えて、麺を作る。実際は工場で大量生産されているはずなのだが、俺はその過程を知らない。物流だって、発砲スチロールの器だってどうなっているのか知らない。
ここで一番重要な問題は、俺はその過程を知らずにお湯を入れて3分待つだけで空腹を凌げるということなのだ。たかが、100円のカップラーメン。それでも、関わっている人は想像を絶する。お湯だって、電気やらガスやらポッドやらヤカンがないと作れないではないか。人は人と知らずにつながっている。
「ラーメン食べている時に阿呆なこと考えすぎでしょう。」
俺の高尚な考えに口を挟む姉。視線は手に持っているスマホ画面に注がれている。
「今日は、帰りが早いじゃん。仕事クビになった?」
「クビになりたい。辞めたい。働きたくない! つーくんはいいなぁ。阿呆なことを考えていれば生きていけるのだから。あんたが働きだしたらしっかり扶養してよ!」
「何で、姉さんを扶養しなくちゃならないんだよ。」
「ユーアーマイブラザー。 アンダースタン?」
「よく、就職できたな。そんな英語力で。」
「こう見えても警部補でーす。」
「日本の警察は死んだ!!」
俺の姉は、警察官だ。と言っても、テレビでよく見る犯人を捉える刑事というものはではない。どちらかというと事務職で警察庁に務めているそうなのだ。警視庁と警察庁があることを姉が就職する時に初めて知った。
警察庁は国が運営する行政機関で、警視庁は東京都を管轄する警察のトップ。捜査に関しては警視庁あるいは各都道府県警がメインとなり、警察庁はその裏で政治的なことをしている認識だ。政治的なことって何だか知らないが。
具体的に姉がどのような業務をしているのか知らない。機密等の理由で家族にも話すことがタブーになっているともネット上の記事で知った。ちゃらんぽらんの姉だが、意外にも真面目なのだ。
「つーくん!! ちょっとマッサージして!」
「・・・食い終わったらな。」
いつもと変わらない日常。スマホからテレビへと視線の矛先を変えた姉に俺は、ため息をこぼすのであった。
・・・・・・
姉が亡くなったのはそれから、ちょうど1週間後だった。